音楽枕草子

クラッシク音楽や読書から趣味などの身辺雑記も含め、感想として綴ったblogです。

ピアニスト・ラフマニノフ~ラフマニノフの弾いたショパン・シューマンなど

今年は旧ロシア帝国セルゲイ・ラフマニノフの生誕150年、そして4月1日は誕生日でした。そのアニヴァーサリー・イヤーに合わせ、以前bloggerに投稿した記事を再聴した感想も含め、再編集しました。

ラフマニノフといえば、現在ではピアノ協奏曲が代表作の作曲家というイメージですが、今から100年程前、20世紀初頭においては、19世紀からの伝統を継ぐヴィルトゥオーゾ・ピアニストとして知られていました。

確かに彼の第2番や第3番のピアノ・コンチェルトは、この曲の名盤選びには必ず登場する定番なので、ピアニストという認識はあったのですが、果たして他の作品はどういった弾き方をしていたのか、あまり知られていないのではないでしょうか?

ラフマニノフロシア革命を避け、1918年にアメリカに渡りコンサート・ピアニストとして活動をはじめました(それ以降2度と故国の地を踏むことはできませんでした)その地で、当時既にエジソンの吹き込み録音が実用化されており、RCAと契約をした彼は1919年から1942年にかけて録音を残しました。

その全録音がCD10枚組、コンプリートBOXという形で発売されており、このアニヴァーサリー・イヤーに改めていくつか拾いききしてみました。

     

収録内容はコンチェルト全4曲はもちろん、パガニーニ・ラプソディーや前奏曲集の自作から、ショパンシューマン、リスト、当時流行だった他者の作品の編曲集etc...様々な作曲家の小品が収められており、自身の交響曲第3番・交響詩「死の島」を指揮している録音もあります。

協奏曲やパガニーニ・ラプソディーは多くが語られてきているので、そのほかの作品の方に興味がありました。でも、きくまでは芸術的な高みよりも、技術一辺倒の内容が乏しい、ヴィルトゥオーゾ的演奏なのだろうと想像してきき始めましたが、あまりの音色の新鮮さに驚きました!
当然、古い録音なので音質面では全く期待してはいけませんが、その針音の合間からラフマニノフの個性がきこえてきます(録音機材のことは疎いので判りませんが、やたら針音ノイズをカットせずに原音を鳴らすようなリマスタリングをしたのではないでしょうか?)

例えば、シューマンの「謝肉祭」の「前口上」から一気呵成の強烈なパワーを感じます。「フロレスタン」や「パピヨン」でのもの凄い速くてダイナミックな弾き方、「ショパン」では以外にも?あっさり通過して「エストレラ」では軽快さがあって、ユーモアまで感じます。
パンタロンとコンビエーヌ」では両者がきちんと対比され、「パガニーニ~間奏曲」は高音と左手の低音の融合によりパガニーニが映し出されます。その後「告白」~「散歩」~「休憩」への流れもうまくて終曲「ダヴィット同盟の行進曲」が引き立ちます。遅めで重厚な始まりから、しだいにテンポを加速していく―その絢爛な響きや、たくましさ―ヴィルトゥオーゾ型ピアニストの典型をここにきく事ができます。

ショパンも彼の特徴をよく表していると思いました。ただ、残された録音はソナタが第2番のみ、時代が影響してか、ワルツとかノクターンといったサロン的音楽が主で(作品64-1のワルツなど複数録音しているものもあるエチュードとかポロネーズは無くて、マズルカが少しとスケルツォとバラードは各1曲と、できれば即興曲舟歌や幻想曲あたり、そしてソナタなら第3番があれば・・・残念な気がします。


まずは「ソナタ第2番」から―第1楽章の出だしのテーマが少し「ごつく」弾かれていて、今のピアニストならもっとスマートに進むところを意図してなのか、彼の音楽性がこうさせているのか興味深いです。第2楽章のトリオにおいても、音楽の流れを堰き止めるようなリズムの取り方で、同様なことがいえます。
第3楽章「葬送行進曲」は感傷的なものではなく、心の内にある怒りというか、外に吐き出せない感情を何とか抑え込みながら弾いているみたいなので、フォルテにきたときは、爆発するような印象をきき手に与えます。トリオでもしっかりと弾き込んでいるので、メランコリックになっていないのがイイです。そして、葬送行進曲が回帰してくる時の、フォルテッシモが強いインパクトがあるものになっています。速いテンポとトリルの不気味さも録音状態も影響してか内容が濃いです。
終楽章は一気に駆け抜けていく嵐のような音楽ですが、ラフマニノフは躍動力で弾ききったような演奏です。

ショパンでは他に「バラード第3番」で、オクターブで躍動していくところの見事な迫力。その前の時を刻むような静けさとのギャップを効かせています。
スケルツォ第3番」は第2主題のキラキラした音がクッキリきこえて、気品を持って堂々と立つショパンが現れます。それにこの主題は「窓のレース編みのカーテンが風に揺らめく様」と形容されることもありますが、とても美しくて混濁しない音色にさわやかさまで感じることができます。

「ワルツ」や「ノクターン」は抒情的で繊細な表現がきかれますが、「ワルツ第1番 作品18」(変ホ長調の『華麗なる大円舞曲』)では、導入からワルツへ入っていくとき、メロディーの途中でテンポをゆっくりにしたり、タメをとってききてを陶酔させる手法、「子犬のワルツ」といわれる「第6番変ニ長調」などでもそうですが、ケレン味がかったような弾き方をするのは、やっぱり彼が19世紀型のヴィルトゥオーゾ・ピアニストであったことに由来すると思います。そういったのがきけるのがリストやメンデルスゾーンの「真夏の夜の夢」のスケルツォラフマニノフ編曲)などといったショート・ピースです。

こういったところをきくと『ピアニスト』としてのラフマニノフは時代遅れといわれてもしょうがない部分があると思いますが、それは時代が進むにつれて演奏も変わり続けている証拠で、だからこそ私たちききても『クラシック音楽』に接する楽しみがあると改めて思います。