音楽枕草子

クラッシク音楽や読書から趣味などの身辺雑記も含め、感想として綴ったblogです。

ルイサダのショパン マズルカ集

ショパンという作曲家は私にとってまだよく理解できていない―決してほかの作曲を理解したと思っているわけではないのですが、積極的にきいてくることをしなかったため、最近になって意識して近づくように努力しつつも、私の一方的な思い込みなのですが「好きな作曲家はショパンです」ということに赤面してしまうというか、言った後に下を向いてしまうような気がするのです。そういった作曲家は他にチャイコフスキーもいます。

 

それでも全くショパンを避けてきたわけではなくて、ピアノ・ソロでなないのですがチェロ・ソナタは秀作と思います、以前はルービンシュタインの輝かしいともいえるポロネーズ集やウィリアム・カペルの颯爽としたマズルカ集をきいてきました。

ショパンの作品のなかでマズルカ集は折々にきくことがあり、特にジャン=マルク・ルイサダが1990年に録音したディスクは廉価盤で入手して以来、愛聴しています。たしか今世紀に入り再録音もしていますがそちらは未聴です。

ジャン=マルク・ルイサダは1958年北アフリカチュニジアに産まれ、教育はフランスで受けて1985年のショパンピアノ国際コンクール(ブーニンが1位になって話題になった)で5位になっているそうです(いうまでもなく著名なコンクール優勝者がその後の活躍が絶対に保障されているわけではない典型と言えます)

ショパンマズルカを60曲近く残しており、その創作期間はごく初期の頃から若すぎる晩年まで、幅広い期間にわたっています。

マズルカとはポーランドを起源とする舞曲で彼の祖国に対するアイデンティティが込められた作品ともいえ、彼のワルツやノクターンなど作品に比べるとその時々の心情告白・内面が表出していると感じます。今でいうならXなどでSNS発信するみたいなものでしょうか?

ルイサダの演奏は2枚のディスクに作品6~68まで番号順に収録されており、1曲目嬰ヘ短調 作品6-1が鳴った瞬間、新鮮な音に引き込まれます。他の曲もリズム、生き生きとした響き、陰影のある表現も魅力です。

ロ短調  作品33-4では後半の左手のみで弾かれるメロディー、そして曲の終わりに左手が次第に音が止まるような緊張感。とてもきき応えがあります。

変イ長調  作品50-2。高音から始まって少ない音が序奏のような役割をして(これはバッハを連想します)所々で心の叫びではないか!と感じずにはいられないメロディーが出てきますが、ルイサダは決してベタベタ弾き方ではないので清らかな印象を受けます。

同様なことはイ短調作品67-4でもきかれます。

他の曲も発見や魅了されるところも多いです。こういう作品の奥深い世界があることを実感させてくれる演奏であればもっとショパンに接したいと思わせてくれます。

【アーカイヴ】フランス・ブリュッヘンさん没後10年

今月最終週末の投稿は他ブログ投稿の引越し記事にお付き合いいただければ幸いです。

私が亡くなった演奏家のなかで一番多く実演に接することのできた指揮者フランス・ブリュッヘンさんが亡くなって今年の8月で10年となります。

亡くなった時に追悼として書いた記事のアーカイブです。

以下、長文となりますがお付き合いください。

 

8月13日、オランダの指揮者フランス・ブリュッヘンさんが亡くなりました。
そこで今週のこのブログは彼を偲ぶ回にしたいと思います。
1934年生まれなので79年の生涯だったことになります。指揮者は80歳を超えて現役という方がいるのでもう少し生きてほしかったです。。。

彼はリコーダー奏者としてデビューしてちょっとチャチに見られがちなこの楽器の地位向上に大きく貢献したそうです。私は彼が指揮者に転向してからしか知らないので、現役時代、ニコラウス・アーノンクールグスタフ・レオンハルトといった古楽演奏家の第一世代の人たちと残した様々な録音できいたのみですが。

1981年にはオリジナル楽器による「18世紀オーケストラ」を創設しました。
この団体は1年間に2,3回、本拠地アムステルダムに各地から固定メンバーが集結。リハーサルをして世界演奏旅行に出発し、帰国後のコンサートをライヴ収録したものを活動記録のようにしてディスク化して発表をしていました。
その演奏旅行で毎日繰り返し演奏しても飽きない『傑作のみ』をとりあげるとブリュッヘン自身が述べていて、名前のとおりバッハ~ハイドンモーツァルト~初期・中期のベートーヴェンあたりが創設時の中心レパートリーでした。

他の同業者(ホグウッド、ガーディナーノリントンアーノンクールetc)がベートーヴェンベルリオーズブラームス果てはワーグナーブルックナーあたりまでレパートリーを急速に拡大している状況に背を向けるように、限られたレパートリー繰り返し取り組む姿がストイックで「音楽の求道者」みたいで「カッコイイ」と思いました。全盛期の90年代にきいた演奏はどれも手垢のついたスコアをきれいさっぱり洗濯をしたようにきこえたので、今世紀に入ってからのやや守りにはいったような演奏をきいた時は、想い出の女性に久し振りに再会したら容姿がすごく変化していた―みたいな寂しい思いをしましたが―

彼の生演奏には3回接することができましたが、当時まだ音楽を詳しくきき取る耳を持っていないにもかかわらず、その体験は強く残っています。

*初めてきいた時のベートーヴェンの序曲「コリオラン」の切り裂くような冒頭和音。同じ日のアンコール、モーツァルトの歌劇「魔笛」序曲のムクムク沸き立って躍動的に動きまわる音。

 
ブリュッヘンさんのコンサートへききにいった時のチラシ
終演後いただいたサイン
モーツァルトリンツ・シンフォニーのスコアへ)


*次のコンサートできいたモーツァルトのフルートとハープのための協奏曲―電灯じゃない、大きいサロンのロウソクの炎に煌めくシャンデリアのもとに集う貴族たちの衣擦れがきこえてくる画が目に浮かぶような響きでした。

2回めの時のコンサート・パンフレット

 

2回目にきいたコンサート・チラシ

3回めの機会はベートーヴェン交響曲第9番でした。第1楽章ホルンの空虚5音がクッキリきこえてくることに驚き、第2主題が出てくるときのテヌートがロマンティックでした。

チラシ
パンフレット
予習用にきいていたCDにサインをいただきました。

私がブリュッヘンの指揮に魅力を感じていたのは、オリジナル楽器演奏家にありがちな復古的、学究的な堅苦しい―まるでTVとかラジオの放送大学の講義みたいに、語っている教授自体が面白くて喋っているのかしら?ただ、自分の研究成果の発表の場になっているようなものではなくて、リズムに弾力性があって曲の解釈に対する強い意志がヒシヒシと伝わってくるところです。そして、前述のベートーヴェンの第9シンフォニーできかせてくれるチョットロマンティックな表現もあったりと常に新鮮に音楽と出会えることです。
そういったブリュッヘンを想いながらお気に入りベスト・スリーをあげると―

(1)モーツァルト交響曲第38番ニ長調K.504「プラハ

後期交響曲で唯一メヌエット楽章を持たない特殊な作品なのですが、その作風はとても緻密な構造であることを教えてくれます。特に第1楽章で様々なテーマが並列して進行するところの立体感と緊張感にゾクゾクします(録音:1988年)


(2)メンデルスゾーン交響曲第3番イ短調作品56「スコットランド

私の大好きなメンデルスゾーン交響曲。ほの暗い響きと古き時代への憧れや懐かしみを思わせるセンチメンタルな気分も同居している彼らしい音楽が、ブリュッヘンの音楽性とよく合っていると思います。まるでスコットランドが「霊場」になったような響きがきこえてきます(録音:1994年)
また、カップリングされている序曲「フィンガルの洞窟」も北国の荒れ狂う波と冷気が吹きすさび、才能・生活に恵まれたメンデルスゾーンの心の中には孤独や虚しさがあったのだろうということが伝わってくる名演です。

(3)18世紀オーケストラ 10周年記念ガラ・コンサート

1991年に創立10周年を記念して行われたコンサートのライヴ盤です。
オペラの序曲、シンフォニーから楽章単位で取り出したりというアンコール・ピース集です。
どの曲もこのオーケストラのエッセンスが詰まっているのですが、1曲めと最後に演奏されたJ.Sバッハのコラール「汝なにを悲しまんとするや」BWV107~「主よ、許したまえ、われ汝の御栄をば」では滑らかに美しいメロディーが奏され、オリジナル楽器のよさが出ていて気品のあるバッハが1分ほどの曲からきく事ができます。あと、シューベルトの「ロザムンデ」間奏曲やロッシーニの「アルジェのイタリア女」序曲もいいですが、メンデルスゾーン交響曲第4番「イタリア」の終楽章サルタレロでは熱気と同時に「狂」を意識します。

*番外編 モーツァルト:ピアノ協奏曲第24番ハ短調K.491
「現代オーケストラからはシンセサイザーの音がする」というような趣旨の発言をしていたブリュッヘンも90年代くらいから少しづつ現代オーケストラへの客演を始めましたが、要は演奏家の音楽性の差で同じオーケストラを指揮しても小澤征爾バレンボイムなどのベートーヴェンなんかとカルロス・クライバーブリュッヘンアーノンクールの演奏をきき比べたら後者の方がはるかに多彩で強烈なインパクトがあることを自らが証明してくれた場でもあります。

この演奏は1993年のザルツブルクモーツァルト週間にウィーン・フィルを指揮したという珍しい演奏会をNHK-FMで放送されたエアチェック・テープ音源です。
この演奏は1993年のザルツブルクモーツァルト週間にウィーン・フィル!を指揮したという珍しいコンサートのNHK-FMで放送されたエアチェック・テープ音源です。
ソロはアルフレート・ブレンデル。演目は他にベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番と得意なハイドン交響曲第99番というそれぞれ関係があって影響し合った、特にベートーヴェンのコンチェルトはモーツァルトのそれから影響を受けているといわれているハ短調を取り上げているという見事なプログラムです。
第1楽章の暗く、重々しい空気、時折光が差すように木管が入ってくるときのニュアンス!多弁せず淡々と弾かれるピアノ。
第2楽章は寂しく、でもモーツァルトらしいやさしさに溢れたメロディーをピアノと指揮者が共に紡ぎ出してくるような感じです。
第3楽章、語りかけるようにテーマが提示され、そのあまり速すぎないテンポであっても弾力性の失われないリズム。おだやかでウットリきき惚れる中間部から後半、そしてクライマックスへ向かってテンポ・アップしながらの盛り上がりが緊迫感があって、その変化ある演奏が素晴らしいです。

ブリュッヘンさん、私はあなたのおかげでオリジナル楽器の魅力を教えてもらい、音楽を演奏するという強い意欲と追求心のある姿勢に深く尊敬いたします。

ナポレオンの心境がリアルに伝わる歴史小説

「ナポレオン」全3巻 佐藤賢一さん著(集英社)を読み終わりました。

購入したのが2019年だったので4年を経ての読破です。

約500ページ×3巻の長編(第1巻台頭篇・第2巻野望篇・第3巻転落篇)

フランスを舞台にした多くの著作を手掛けられている佐藤さんのいよいよ真打登場といった作品であります。

作品の長さからいえば、こちらも佐藤さんを代表する「フランス革命」も文庫で全18巻の大著で、塩野七生さんの「ローマ人の物語」と並び日本人作家による歴史小説を代表する作品といえます。

またナポレオンを題材とした著作とすれば藤本ひとみさんの「皇帝ナポレオン」全2巻(角川文庫・2003年)と共に近年を代表するナポレオン書籍となります。

佐藤さんの「ナポレオン」は第1巻「台頭篇」では幼年期から士官学校時代~任官してからのコルシカのために活動するところやイタリア遠征が詳細に書かれており、特にイタリア遠征の模様はあまり言及されない戦いも記述があり興味深く読みました。地名や位置関係が分からない方はココで挫折してしまうかも(図面や戦況が解る図版があればとも思いますが)しかしそれ以降、第2巻「野望篇」からは一気に出世街道を邁進するかのように物語は進んでいきます。

第3巻「転落偏」の後半、エルバ島脱出後からワーテルローの敗戦からイギリスに逃れるところも詳細に書かれており、逆にセント=ヘレナ島配流後の生活と死についてはサクッと進み、ナポレオンの遺骨がフランスに還ってくる件を書いてリズムが良い終り方です(書物によってはセント=ヘレナ配流生活を克明に記すこともありますが、それまでの生涯が劇的でスピーディーなので凡長になる場合があります)その辺りはナポレオンを主人公にした物語のバランスが難しいところかも。

そしてこの作品キモとして描かれているのはナポレオンがなぜヨーロッパ全体を戦果に巻き込み侵略を繰り返したか?ということです。

軍人出身の彼は戦果による力の誇示しか存在を認めさせることができない。皇帝になっても諸外国からは「成り上がり皇帝」としてからみられていないという劣等感。帝国の領土拡大により国内に向けては人気取り、国外には戦力による圧力をかける戦争を止めることができず、ついにはロシア侵攻へと突き進み、失敗後も権力維持のための戦争(諸国民戦争)を続けたとして描かれております。

ナポレオン本人は皇帝になれば、この戦争に勝利すれば、この政策が成功すれば、平和と安定が得られるかと行動してもその通りとはならず葛藤していくのが第2巻の野望篇と第3巻の転落篇に書かれています。ナポレオンの内心にて感じた事や焦燥や怒り、困惑なども書かれているのが小説らしくていいです。

歴史上で絶大な権力を握った人間がなぜか「足るを知る」ことができないのだろう。と思うところではあります。

また、タレイランフーシェといった一癖も二癖もある政治家やネイ、ミュラ、マルモン、スルト、ベルティエといった元帥たちとの関わりも書かれており、特にタレイランフーシェとの協力~反目~対立も双方の思惑も絡み合いながら描かれています。また、あまり役に立たなかった兄弟たちも登場します。

そして幼年学校時代からの友、ブーリエンヌとの関係や元帥のなかではあまり知られていない、マクドナルドも登場してその経歴も語られるのがファン心をくすぐります。やっぱりナポレオン関係においてはその周りを取り巻く人物も多彩なので、しっかり書いてくれているのもうれしいことです。

当然ですが、相当の資料を集めて書かれた大著であり、先の藤本ひとみさんの著作ではナポレオンを題材にしていながらも、直接的なナポレオン像を描き出すのではなく読み物としての面白さが先立つ作品なので、この佐藤賢一さんの著作はナポレオンの喜びや苦悩・葛藤・怒りの心境がリアルに読者に伝わってきて、歴史なので結果は知っているのに「どうなるのだろう?」みたいな先を知りたくなるような緊張感が文体から伝わってくるので、昔小学生の頃に夢中になって読んだ子供向けのナポレオンを描いた本を思い出しました。なかなか戦争や英雄を描きにくい時代ですが、この著作は近年にない英雄・ナポレオンをストレートに読者伝える作品です。

Selct Classic(19)~R.シュトラウス:四つの最後の歌~生誕160年

今年はR.シュトラウスの生誕160年にあたります。「ばらの騎士」なのどオペラを除き、彼の作品で私が皆様にご紹介したいものが「四つの最後の歌」となります。

この作品はR.シュトラウスの亡くなる1年前、1948年に書かれた最後に完成された作品となりました。彼は1864年に生まれて1949年に亡くなっていますので、とても長命でその創作期間も同様に長かったのですが、その生涯を通じてソプラノの高い声を愛していたそうでオペラやリートでもその見せ場があったように、この作品でも魅惑的な歌声にきき惚れます。しかし、その当時廃墟となったベルリンを始めとしたドイツの戦禍を目の当たりにした彼がどんな心境で作曲を進めたのでしょうか―そんな事にも思いを馳せる音楽です。

第2次世界大戦後、スイスで戦犯容疑もあったことから、隠遁するように暮らしていた彼が、ヨーゼフ・フォン・アイヒェンドルフ(1786~1857 ドイツ・ロマン派の詩人でヴォルフなども付曲しています)の詩に接して晩年の心境とも重なり、インスピレーションを受け書かれたのが「夕映えに」です(1948年4月作曲)
同時期にファンから贈られたヘルマン・ヘッセ詩集からも共感を覚え、「春」を7月に「眠りにつくとき」を8月に翌月には「9月」の3曲を書き上げました。
演奏されるのは出版の曲順に従い「春」―「9月」―「眠りにつくとき」―「夕映えに」というものが一般的です。

第1曲「春」 「ほの暗く長い冬からまばゆいほどの春が訪れた―」というような内容の春を讃える歌です。
冒頭ではまだ寒い冬から春の目覚めを印象付けて、しだいに鳥の声や樹の葉のそよぐ音が春の到来を描き「春」=「恋人」をイメージできるような、老人とは思えないみずみずしい音楽です。

第2曲「9月」 「夏が終わって庭は悲しみ、冷たい雨が降っている。次々と沈んでいく夏の庭の中で驚き、疲れて、物憂げな微笑みを浮かべる。ばらの花のもとにとどまって、やがて大きな疲れた目を閉じる」という大意です。夏から秋への季節の移り変わりを人生の終焉に例えて、黄昏に近づいていることをワーグナー風のオーケストラの細かい動きで描きます。曲の最後できこえてくるホルンの音が、告別への余韻みたいに響きます。

第3曲「眠りにつくとき」 「いまや私は昼間の営みにあき、疲れ果てた。私の願いは疲れた子供のように夜を迎えることである。私の手よすべての行為をやめよ、私の額よすべての思考をやめよ。いまやただ眠りの中に沈もうとしている・・・」夜の訪れを死へのイメージと重ねた詩なのですが、音楽は憧れに満ちたもので中間部できかれるヴァイオリンのソロはロマンティックで、拡大されたオーケストラの包み込まれる響により、死への不安よりも受け入れる心構えといったようなものが伝わってきます。

第4曲「夕映えに」 もうこれは完全に死の予感に満ちている曲で、詩の大意は「苦しみ、喜びも私たちふたりは手を取り合って歩んできた。今はさすらいをやめて静かに休もう。2羽のひばりが夢を追うように大空を飛んでいる。さえずるのはひばりに任せて私たちは眠ろう。静かな安らかな夕映えの中で。旅の疲れがなんと重いことか。もしかしたらこれが死というものだろうか」というような内容です。冒頭の雄大なオーケストラの響きは太陽が地平線に沈む画が目に浮かび、R.シュトラウスらしい描写力に引き込まれます。幾重にも重ねられるメロディーが祈りを繰り返しているみたいで、終わりの長い後奏では憧れであったり、人生へ回顧をしつつ鳥の声が響く中で天に昇っていくような印象を受けます。
このアイヒェンドルフの詩につけた曲が一番最初に書かれたわけですが、4曲の最後を飾るのにふさわしいものだと思います。

初演されたのは作曲者の死後1950年(キルステン・フラグスタートのソプラノ、フルトヴェングラーの指揮)でした。時代は既に前衛音楽が登場していましたが、それに背を向けるようにして書かれています。そこには晩年の諦念・静謐、それにドイツの戦禍により物質的なものだけではない、失ったものへの追想も伝わってくる作品といえるのではないでしょうか。

《Disc》
よい演奏はたくさんありますが、カラヤンの晩年1984年にアンナ・トモワ=シントウと録音した演奏からは惜別の思いが込められているようで、きいていていつもグッとくるものがります(オーケストラはベルリン・フィル

カップリング曲も(カラヤン唯一のものばかり)この作品との関連を意識した構成です。ただし収録曲は少なく、もう少し盛り込んだディスクであっても・・・と思うところもありますが。

ちなみに彼女はこの録音の2年程前に「ばらの騎士」の元帥夫人をカラヤンと実演・録音しています。1970年代後半から晩年に共演が多かったソプラノ歌手です。

もうひとつ元帥夫人といえば、エリーザベト・シュワルツコップの録音も定番として昔から知られています(指揮:ジョージ・セル/ベルリン放送交響楽団

オーケストラの硬質な響きもあって「深遠」と表現したくなる演奏です。

不定期投稿:最近のお買い物から~中古LPレコード購入「その2」

LPレコード購入(捕獲)記録の投稿、今回は前回に続き「その2」貴重盤!?珍盤!?編となります。引き続きお付き合いいただければ幸いです。

 

〇世界行進曲全集 アメリカ篇/イギリス篇/フランス篇/ドイツ篇 レコード番号:VOX SVOX-8516~9

 指揮:マジョール・ダイゼンロート/バッハ・バタリオン軍楽隊/英国軍楽隊/フランス軍楽隊

段ボール箱の上に無造作に置かれていたレコード。ジャケット写真を見てナポレオン・コレクターとしては手に取ってしまいました。「エロイカ・シンフォニー」か「皇帝」とかVOXレコードのベートーヴェン曲集かクラシック系であるのかな?と思い手に取って化粧箱を開けてみると上記タイトルが。

「アルコレ橋上で軍旗を持つナポレオン」をあしらったジャケットのレコードに出会ったのもご縁と思い購入。

まさに「ジャケ買い」のレコードです。4枚組で税込330円也。

 

〇NHK・FM放送テーマ音楽集〈クラシック編〉 レコード番号:ロンドン・レコード SLA-6330

タイトル通りクラシック音楽番組のテーマ音楽のオムニバス盤。収録曲と番組名は写真の通りです。

そのなかで私の知っている番組は「オペラ・アワー」のみ。確か毎週日曜日の15:00から18:00までの番組だったような・・・現在オペラ番組は「オペラ・ファンタスティカ」として毎週金曜日14:00~18:00に放送されています(この時間帯では仕事中の車移動時に耳にするくらいで、全曲のリアルタイム聴取はできませんが)オペラ全曲を聞くことのできる番組です。

ちなみに「オペラ・アワー」の前には山本直純さんの解説(月1回か各週の担当)で「シンフォニー・アワー」だったかな?も楽曲解説が詳細で楽しみな番組でした。

B面の1曲目に収録されているロッシニーの弦楽のためのソナタ第1番は「クラシック・リクエスト」(毎週日曜日19:20頃、19:00のニュース終了後から21:00まで)のオープニングにも使用されていたと思います。指揮者の大友直人さんと女性のパーソナリティ(アナウンサーか音楽大学生かな?)が担当されていたと思います。

このようなレコードになったり、未だに番組を覚えていたりと以前のNHK-FMはクラシックの宝庫でしたね。それに比べて今年(2024年)4月からの放送スケジュールはいったいどうしてしまったのでしょうか?FM放送が第2放送の補完番組みたいに朝と夜には英会話などの外国語講座が居座っています。それに意外と楽しみにしていた邦楽や日本の民謡番組がほぼ消滅してしまったのはとても残念です。

話題が拡がりすぎてしまいました―このレコードは税込110円だったので洒落のつもりで購入しました。それに私の密かに好きなベルリーニのオーボエ協奏曲が全曲収録されているのも購入理由です。

 

ここからは真面目な珍しい・入手困難と思われるレコードとなります。

ベートーヴェン交響曲第5番「運命」・シューベルト交響曲第8番「未完成」 

 レコード番号:東芝EMI JPSR1001

小山清茂管弦楽のための木挽歌・外山雄三管弦楽のためのラプソディー他

 レコード番号:東芝EMI 

 指揮:渡辺暁雄/日本フィルハーモニー管弦楽団

このオーケストラの創設者でもある渡辺暁雄さんのレコード2枚。既に亡くなられて34年が経過するのでご存じない世代の方もいらっしゃると思いますが―私も同様ですが。もっぱらシベリウス指揮者という認識でした。

渡辺さんのディスクは現在入手も困難で、珍しいと思ったので購入。1枚税込110円。

ベートーヴェンシューベルトには楽団員の方でしょうか、ジャケットの表・裏にマジックでサインがしてあるのも興味深いです(写真を参照下さい)

そして、十八番のシベリウス交響詩フィンランディア」がレコード番号JPSR1002のB面のトリに収録されています。

 

〇栄光の巨匠カール・ベームの遺産1~3、5~9 レコード番号:東芝EMI EAC-40210~12、15~19

 指揮:カール・ベームザクセンドレスデン)国立歌劇場管弦楽団

カール・ベームの演奏といえば1960年代からのドイツ・グラモフォンウィーン・フィルベルリン・フィルと録音したモーツァルトベートーヴェンシューベルトブラームスなどが名演として知られており、質実剛健でドイツ音楽のプロフェッサー型指揮者というイメージがありますが、第2次世界大戦前~大戦中はドレスデン・シュターツカペレ(当時はザクセン・シュターツカペレ)の首席指揮者を務めていだそうです(1934~1943年)、その当時はザクセン国立歌劇場管弦楽団といわれおり、この時代としては珍しく数多くのSP録音が残されました。そのLP復刻盤を何枚か入手することができました。CD化されたこともありましたがBOXセットということもあり、とても購入できるディスクでは無かったので買い逃してしまいました。現在は国内盤も輸入盤も入手は困難なのではないでしょうか?オークションなどで高買いをすれば別でしょうが。

税込110円で複数の段ボール箱に分散して投げ売り状態なのを見て急ぎ救出(保護)しました。

全11枚の復刻と解説書に書いてありますが、今回入手できたのはこの8枚のみです(見逃しもあったかもしれませんが)

以上、2回に分けての中古LPの捕獲(購入)記録の投稿でした。

お付き合いいただきありがとうございました。

最近のお買い物~中古LPレコード購入「その1」

今回はLPレコード購入(捕獲)記録の投稿にお付き合いいただければ幸いです。ちょうど会社も夏季休業となったので今回と次回の2回に分けて投稿したいとおもいます。

ここ最近のレコード捕獲場所になっているHARD OFF(エコ・リユース・ファクトリー)さんの段ボール箱を見ようと上からのぞくと明らかにクラシックレーベルのレコードが多数あるではありませんか!次から次へ珍しい盤を見つけてしまい、個人的には多数の買い物となっていまいました。

まずは、以前の投稿でもご紹介した最近の収集アイテムになっている「コンサートホール・ソサエティ」のレコードから。

ベートーヴェン交響曲第7番/序曲「シュテファン王」 レコード番号:M2283

 指揮:ウィレム・ヴァン・オッテルロー/ウィーン音楽祭管弦楽団

怪しいオーケストラ名(解説ではウィーン交響楽団が6月に開催される音楽祭参加の録音用の名称とのこと)

オッテルローのベートーヴェンはマニアの間では知られているので興味があります(税込110円)

 

メンデルスゾーン:劇音楽「真夏の夜の夢」(抜粋)/序曲「フィンガルの洞窟」 レコード番号:M2214

 指揮:カール・シューリヒト/バイエルン放送交響楽団シュトゥットガルト国立放送交響楽団

こちらはデンオンにてCD化もされているシューリヒトの名演のひとつ(税込110円)

 

モーツァルト:ピアノ協奏曲第21番・第27番 レコード番号:M2319

 ピアノ:フリードリッヒ・グルダ(レコード表記に基づく)

 指揮:ハンス・スワロフスキー/ウィーン国立歌劇場管弦楽団

このレコードもデンオンでCD化されている、グルダが装飾音を沢山入れて弾いた演奏として知られているもの。CDは未聴なので税込110円なので購入。

 

ストコフスキー バッハ・トランススクリプション集 レコード番号:ロンドンレコード GT9141

 指揮:レオポルド・ストコフスキーチェコ・フィルハーモニー管弦楽団

1977年1月に追悼盤として発売のストコフスキー名盤1300シリーズです。

ストコフスキーは「色物指揮者」というイメージで、映画「ファンタジア」で接したのと、彼としてはまずらいレパートリーであるモーツァルトのセレナード「グラン・パルティータ」以外ほとんどきいたことがなく、代名詞ともいえるバッハのオーケストラ編曲集にも興味がありませんでした。しかし、「トッカータとフーガ」は別として、収録されている作品がコラール前奏曲パッサカリアとフーガなど名高く美しい曲が収録されており、価格も税込110円、帯付きということもあり購入。

 

ビゼー:歌劇「カルメン」(全曲) レコード番号:東芝EMI EAC-4725~26

 指揮:アンドレ・クリュイタンス/パリ・オペラ・コミーク座管弦楽団&合唱団

 カルメン:ソランジュ・ミシェル/ドン・ホセ:ラウール・ジョバン他

段ボール箱を見た時に最初に目に入ってきたのがこのレコード。オペラ全曲盤の組み物があるとは思わなかったので迷わず捕獲(税込330円)国内盤で対訳付き。

クリュイタンスも定番のフランス物を若干きいたことがあるくらいで過去の指揮者というイメージです。意外にもこの1951年のモノラル盤が彼の唯一の「カルメン」で、国内盤CDが発売されたのか定かではありません。

シューベルト:歌曲集「冬の旅」(全曲)&マーラー:歌曲「さすらう若人の歌」 

レコード番号:エンジェル AA-8168-9

バリトン:ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウ

ピアノ:ジェラルド・ムーア 指揮:ウィルヘルム・フルトヴェングラー フィルハーモニア管弦楽団

こちらはボールの上にポンと置かれていました。いうまでもなく名曲名演の定番レコードです(録音:1961年)

2枚組で2枚目のB面にはこちらも有名なフルトヴェングラーとの「さすらう若人の歌」が収録されています。

購入した理由は価格もありますが(税込330円)その解説(声楽家・評論家の畑中良輔さん他の充実したもの)と対訳はもちろんですが「冬の旅」の全曲楽譜が付いていることです!

レコードの大きさもあるのでしょうが、CD時代には無くなってしまった特典です。レコードが文化教養物であった時代を感じる化粧箱入りの贅沢な創りのレコードです。

以上、最近のレコード購入記録「その1」の投稿でした。次回の購入版は入手困難盤?や珍品盤!?となりますがお付き合いいただければ幸いです。

ブーレーズのマーラー録音

あまりにも暑すぎる今年の夏ですが、その季節にきくにはシンドイ作曲家マーラーの体験のエピソードにお付き合いいただければ幸いです。

私が音楽をきき始めた頃、ちょうどマーラー交響曲全曲演奏会みたいなものが最盛期で(不景気とは言われながらも、まだまだ好景気時代の余韻がありました)シノーポリベルティーニ若杉弘さんの演奏をNHK-FM中継できいた覚えがあります(3人の指揮を全曲ではありませんが・・・確か若杉弘さんの演奏会の中継放送は途中で放送しなくなったような・・・)

ほぼ同時期にこのような演奏会があったことは、今になって考えてみればクラシック音楽がスポンサーのビジネスとして成り立っていた最後の頃かもしれません。当時「マーラー交響曲が全曲きける!」イベントに喜びを感じていました(長大なマーラーブルックナー交響曲やオペラの全曲のCDを買う金銭的ゆとりが無かったことと共に、それを購入しても理解する耳を持っていなかったという理由もあります。しかし、今はゆとりと理解する耳を持っているのか?と問われると言葉はありませんが)

さて、彼の交響曲をきいて感じたのは様々なメロディーとハーモニー、そして異色な楽器―カウベル、ハンマー!などまでが動員される音響に驚き、独唱者の歌唱・合唱の迫力に押され、圧倒されました。はじめはその音の響きとパワーをきくのみでした。

その後、ピエール・ブーレーズマーラー交響曲全曲シリーズを様々なオーケストラを振り分けてグラモフォンと録音を始めたと知った時は「ブーレーズ、お前もか!」と感じ、「知的な闘志」と思っていた彼もいよいよメジャーレーベルに金で買われ、大衆迎合するようになったのか!と半信半疑で第1弾として発売された第6番「悲劇的」をききました。

一番最初に思ったのは第6番がCD1枚!?ということでした。長時間収録が当たり前のCDでもこの曲がCD1枚に収まるのには相当テンポが速いのでは?という思いは裏切られつつその予想が当たっている所もありました。

まず第1楽章のあの葬送行進曲のような暗いテーマがズンズンと遅いテンポで重厚でありながらもクリアな音で始まり驚いた・・・と書いて今日は第7番のことについても述べるつもりだったことを思い出しました。もう少し書くとテンポでいえば全体に遅めであり、特に印象深いのは第3楽章の出だしが小さい音で、まるでブルックナー交響曲における第1楽章の始まりみたいな感じを受けました。

マーラー交響曲の演奏では改めて言うまでもなく、バーンスタインがその筆頭に挙がってきますが、彼の感情移入たっぷりの涙と慟哭でいっぱいにされた後、立ち上がれないほどの重荷を背負わされたような―そこにはバースンタインのケレン味も感じる場合もありますが―ブーレーズ盤は当然そんな音楽はきこえてきません。

決めれたサイズ、規格で出来た精密機器のように、まさに「冷たい」と表現したほうが良いというものですが、これは彼の演奏なら予想されたことです。まるで「泣きたければ泣け」と言われているみたいと感じる方もいるかもしれません。

マーラー交響曲というのは大音響で「聖」と「俗」が入り組んだ複雑なスコアで様々な楽器が、それはもうハイドンモーツァルト、それからベートーヴェンといった人達のものより何倍も盛り込まれ、音の洪水みたいになっている音楽なので録音状態はいい方がきき易く「マーラー交響曲は大音響で鳴っていればOK!」というきき手の方にブーレーズ盤はお勧めできます。

マーラー交響曲第7番は「夜の歌」という副題が付いていてもなかなか評価が定まらず「支離滅裂な作品」とされていますが、ブーレーズ交響曲全集の録音中、一番高く評価したいです。

私のマーラー交響曲体験は「大地の歌」(これを交響曲とするかは意見がいろいろありますが)から始まり第9番の次くらいにきいたので結構早い段階で接してきたせいかも知れませんが、一番彼の交響曲でピン!ときた作品なので、評価が低いと知ってショックでした。最近は結構見直されるようになり人気もでてきましたが。

第1楽章の混沌とした世界(独特なテナー・ホルンによる音色が印象的)第2・4楽章の憂いを帯びていながらも優美な音楽。ギターやマンドリンまでも使用したその響きにも魅かれました。その音楽に挟まれた不安や焦燥感をもった第3楽章のスケルツォ。そして第5楽章の歓喜?狂喜?ともいえる爆発的な音楽。初めてきいた時は人類の終わりを前にして羽目を外した大騒ぎではないか?それともベルリオーズの「幻想交響曲」の終楽章ではないですが、死後の地獄絵図をきいているみたいでした。

ブーレーズ盤の話に戻りますと、彼は第5番から始まった「純器楽」による交響曲のひとつの到達点として演奏しているように感じ、本当によく楽器が鳴っています。例えば第4楽章のヴァイオリンがとても甘美なメロディーを演奏しています。

オーケストラはジョージ・セルが長年鍛えあげたクリーヴランド管弦楽団ブーレーズ自身もセルの晩年から首席客演指揮者の地位にいた楽団(その頃の楽団員もちろん退団して皆無でしょうが)その実力を評価して起用したのでしょう。この深刻さ、諧謔的、優美さが見事に同居している交響曲を一気にきかせてくれます。

ジェレミー・ブレット=シャーロック・ホームズのインパクト:映像化の舞台裏

イギリスのグラナダTV製作によるコナン・ドイル原作のミステリー小説の映像化した「シャーロック・ホームズの冒険」シリーズは1980年の中頃からNHKでも放送され、原作に忠実な映像作品という評価を得て何度も再放送され、DVDのソフトとしても発売されています。

私も中学校の時に放送を観て、同時に新潮社文庫で発刊されていた延原謙氏の訳で全巻を読み、その刷り込みもありますがホームズを演じたジェレミー・ブレットに強烈なインパクトを与えられました。

その映像作品がどのように製作されたかを放送された各作品、各シリーズに分け、それぞれのネタバレを含みつつ演出や舞台裏が関係者の証言を基に書かれたシャーロック・ホームズ&ジェレミー・ブレットのファンにはとっても興味深い本が発行されました。

シャーロック・ホームズとジェレミー・ブレット」著者:モーリーン・ウィテカー 訳者:高尾菜つこ 監修:日暮雅通 原書房 2023年11月刊

 

その構成の面白さと巧みさ―実際にこの本を読むのは既にTVシリーズ観てジェレミー・ブレットを知る読者を対象としているので、観ている方は場面と作品を思い浮かべながら、また再び観て楽しめるようになっています(ウンウンとうなずきながら思い出す場面とストーリがあると思います)

なによりも「原作に忠実」と評価されたように作品が書かれた1890年代~1900年代初頭の舞台となったロンドン市街や生活風景を映像化するにあたり、ジェレミー・ブレット自身が「正典」―シャーロック・ホームズファン=シャーロッキアンの間では「原作」をこう呼びます。を持ち歩き(それもアンダーラインなど書き込みされたものを)演出で原作からかい離するような場合は衝突も辞さない姿勢で制作サイドと対立したこともあるそうです。

そのためもあり、初期のシリーズの何作では初版時の挿絵(シドニー・パジェットという方が描いた)とほぼ同じ構図のカット割りがあったり、原作そのままの印象的なセリフが出てきます。また、スチール撮影や宣材用として撮られたと思われる写真も豊富に掲載されていて、見ているだけで作品と場面やセリフが思い浮かんできます。

そしてなりよりもジェレミー・ブレット=シャーロック・ホームズというイメージを全世界で認知されるようになると共に、本人の自覚(プレッシャー)も相当なものであったらしく、いわゆる「役に食われて」しまっていく様子、またそこに奥様の死も重なり、心身ともに蝕まれつつもストイックに仕事に向き合っていく姿も書かれています。

映像でしか作品を観ていなかった方にはショッキングなものでしょう。私も彼の死後になってそういった話を見聞きしていて、今回この本にて真相を知ることができました。

観ていた当時は後半のシリーズ毎にジェレミー・ブレット「ホームズ」の容姿の変化に違和感というか、なんとなく不安を感じていたので。。。

改めてこのホームズ・シリーズが高い完成度を誇る映像化作品の決定版になったため、後続の作品が作り難い状況になったのでは?とも思っています。

それ故にホームズを主人公にした作品は舞台を現代にしたり、ワトスンを女性にしてみたり、映画2作も作られましたが、ロバート・ダウニーJr演じるホームズの描写を変えてみたりなど―両作品も映画館で観ましたが、これはこれで娯楽作品として鑑賞するには申し分ない映画でしたが―最近はホームズの青年時代を描いたドラマ制作が進んでいるというネット記事を目にしました。製作者たちも同じ土俵では必ず比べられてしまうので、こういった変化球勝負の作品制作に走る方向になっています。

その点、映像化作品以外は原典をベースにしたパスティーシュとして今も様々な文学者が手掛けていますが―

ただし、ミステリー業界において「シャーロック・ホームズ」は圧倒的な知名度もあり、各製作者たちには魅力的な「商材」でもあるのでしょうが、是非とも「正典」にリスペクトを持った作品を制作してほしいものです(映像作品はもちろん著作物も含め)

以下は私のシャーロック・ホームズ鑑賞のアイテムの一部です。

小学校から中学生の頃に夢中になって読んだ延原謙訳による新潮文庫

DVDも吹替え版・字幕版と繰り返し観ました

使用されている音楽も秀逸で、クラシック音楽~バッハやルネサンス期を連想するものもあり、映像とマッチングしていると思います。

Selct Classic(18)~ドビュッシー:ピアノ三重奏曲

今週ご紹介するのはフランスを代表する作曲家のひとりクロード・ドビュッシー(1862~1918)が最初期に完成させたピアノ三重奏曲ト長調です。

ドビュッシーが1879~80頃、ちょうど17、8歳の時にチャイコフスキーパトロンとして有名なフォン・メック夫人の長期旅行にピアニストとして同行しました。その際に自身がピアノを弾き夫人の前で演奏するために書かれたものと思います。しかし、その後はどうも忘れ去られてしまったらしく、楽譜が散逸してしまい完全な形として出版されたのは1986年になってからのことだそうです。また、彼の生涯においてもこの頃の事は伝記などでも多くは語られておらず、作曲のはっきりした経緯も私の想像です。

それもあってか、めったに演奏されることも無ければ、彼の作品紹介でも登場することも皆無です。しかし忘れられた秀作としてここでご紹介をしておきたいと思います。

彼が後年、新しい音の響きを生みだしていったのに対して、このピアノ・トリオからはそういった印象は受けなくてフランクやフォーレサン=サーンスの作品にも通じるものがあり、そこに青葉のような香りも感じます。

曲は4つの楽章から出来ています。

第1楽章 アンダンティーノ・コン・モルトアレグロ

冒頭、ピアノ~ヴァイオリン~チェロへとメロディーが受け継がれていき発展していきますが、小さなつぼみが花を咲かせ満開になっていくみたいです。

第2楽章 スケルツォインテルメツォ・モデラート・アレグロ

ピチカートで始められるリズムから民謡風で親しみやすい旋律が耳馴染みが良いです。

第3楽章 アンダンテ・エスプレシーヴォ

あまりにもムードたっぷりで初めてきいた時はのけ反りそうになりましたが、とてもロマンティックに弾かれる音楽には 耳が自然と吸い寄せられていきます。束の間の夢のように終わってしまう短い3分程の楽章です。

第4楽章 フィナーレ、アパッショナート

急速なリズムとテンポで駆け抜けていくところに若者の「ほてり」みないなものをヒリヒリと感じます。

《Disc》

ピアノ:ジャック・ルヴィエ

ヴァオイリン:ジャン=ジャック・カントロフ

チェロ:フィリップ・ミュレ

手許にあるのはこのディスクのみですが、1987年に録音されているので恐らく出版後初の録音と思います。

音楽の持っている軽い感覚をうまく表現しているのではないでしょうか?

音の彩色もきれいで第1楽章などでは目の前に貴族の庭園が広がるような感じがして、曲の魅力をよく伝えてくれていると感じます。

不定期投稿:最近のお買い物から~中古LPレコード購入

3日連続の投稿はLPレコード購入(捕獲)記録にお付き合いいただければ幸いです。

HARD OFF〜エコ・リユース・ファクトリーさんにて入手した物になります。

1枚110円(税込)の誘惑に負けて購入してしまいました・・・。

ベートーヴェン交響曲第5番「運命」/シューベルト交響曲第8番「未完成」

 レコード番号:RCA RCL-1004

 指揮:シャルル・ミンシュ/ボストン交響楽団

レコード時代の「運命」&「未完成」の名曲定番組合せ盤。

久しくきいていないですが、ミンシュのドイツ音楽は快速テンポで泥濘に足を取られたような表現でなくて好きでした。昔所有していた廉価盤CDが行方不明になっているのでこの機会に再聴を兼ねて購入。

ブラームス交響曲第1番・大学祝典序曲 レコード番号:キング MZ5015

指揮:エドゥアルト・ヴァン・ベイヌムアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団

マニアの間ではこの曲の隠れた名盤として人気のあるレコード。購入の機会を逸していましたので、この価格ならと思い参考資料として購入。

〇ヴァルヒャ/バッハ、パッサカリア レコード番号:アルヒーフ MA5054

 オルガン:ヘルムート・ヴァルヒャ

往年のオルガン演奏の大家。バッハ演奏ではカール・リヒターと並びアルヒーフ・レーベルの看板演奏家でした。

一部の演奏はきいたことはありましたが、レコード(帯付き)&安価入手できけるのは幸運です。

ファンタジーとフーガBWV542/パッサカリアBWV582/ファンタジーとフーガBWV537の秀作がまとめてきけるお徳盤です。

モーツァルト:レクイエム レコード番号:東芝EMI EAA-85002

 ソプラノ:シーラ・アームストロング/メゾ・ソプラノ:ジャネット・ベイカ

 テノール:ニコライ・ゲッタ/ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ

 指揮:ダニエル・バレンボイム/イギリス室内管弦楽団/ジョン・オールディス合唱団

録音当時(1971年)はワルターベームカラヤンといった巨匠指揮者が気合を込めて演奏したようなスタイルが一般的だった時代に室内オーケストラを振った若きバレンボイムがどういったスタイルでアプローチしているか興味があり購入。これも価格と帯付きレコードというセールス・ポイントがあればこそですが。

歌手はオペラ録音のような顔ぶれで、フィッシャー=ディースカウモーツァルトはオペラは別として、宗教音楽は珍しいので(オイゲン・ヨッフムとの戴冠式ミサ曲くらい)その歌唱にも興味があります。

モーツァルト:レクイエム レコード番号:グラモフォン MG2299

 ソプラノ:エディト・マティス/アルト:ユリア・ハマリ

テノール:ヴィエスワフ・オフマン/バス:カール・リーダーブッシュ

 指揮:カール・ベームウィーン・フィルハーモニー管弦楽団ウィーン国立歌劇場合唱連盟

「レクイエム被り」になりましたが、先の1971年のバレンボイム盤と同じ年に録音された昔からこの作品の「名曲名盤選」にはワルターと並び必ず登場する演奏です。個人的には放送などで耳にしたことあるくらいで、この曲の体験はカラヤンからマリナー、そしてアーノンクールブリュッヘンなどの古楽演奏へいってしまい、ベーム盤はほとんどきいてきませんでした。改めてきいてみたいと思います。

モーツァルト:歌劇「魔笛」(全曲) レコード番号:ロンドン GT-7059~60

 パミーナ(ソプラノ):ヒルデ・ギューデン/夜の女王(ソプラノ):ヴェルマ・リップ/タミーノ(テノール):レオポルド・シモノー/パパゲーノ(バリトン):ワルター・ベリー他

 指揮:カール・ベームウィーン・フィルハーモニー管弦楽団ウィーン国立歌劇場合唱団

ベームの「魔笛」はもっぱら1964年にベルリン・フィルとグラモフォンとの録音が名演として知られており、こちらの1955年の初期ステレオ盤はきいたことがなく、国内盤CDも含めて記憶が無かったので購入しました。もちろんこちらも価格330円(税込)&帯付きのレコードという理由もありますが。

1964年盤がオーケストラも含めガチガチのドイツ勢を中心とした正統派演奏に対し、こちらはオーケストラも含めウィーン勢を中心に歌手も上記の他に、ザラストロにクルト・ベーメ、3人の侍女にクリスタ・ルートヴィヒがおり、多彩なメンバーなので興味があります。

以上、LPレコード購入(捕獲)記録の投稿でした。

購入メモ的な投稿にお付き合いいただきありがとうございました。