音楽枕草子

クラッシク音楽や読書から趣味などの身辺雑記も含め、感想として綴ったblogです。

マウリツィオ・ポリーニさん追悼①

マウリツィオ・ポリーニさんが3月23日に亡くなりました。1942年の生れですから82歳、近年は体調を崩されて演奏会のキャンセルも多かったそうです。

彼はなんといっても現在最高のピアニストのひとりでした。ここでわざわざ経歴を書くまでもないですが、1960年18歳の時に出場したショパン国際ピアノコンクルールで優勝して注目を浴びますが、他の優勝者のように華々しい楽壇へのデビューを避け、何年間か勉強・研鑽期間を経て1968年に国際的な活動を始めました。

圧倒的なテクニックと洗練された音色で主にドイツ・グラモフォンに録音されたディスクは、現在まで名盤と呼ばれるものばかりです。

しかし、それ故に彼は「完璧主義者」を求められ、その重圧からナーバスにもなっていたのではないでしょうか?活動やレパートリーの選定から演奏活動・録音にも影響していたようにも思います。

私が音楽をきき始めた頃、ポリーニアルゲリッチアシュケナージバレンボイムと共に世界最高のピアニストという評価が確立している1990年代だったので、NHK-FMなどの海外公演や来日公演をエア・チェックしてきいていました。しかし、ポリーニを意識してきくようになったのはここ10年くらいです。

今まできちんときいてこなかったショパンを勉強しようと思いポリーニアルゲリッチの演奏をきいてショパンへの理解が深まり、同時にポリーニショパンも強く惹かれました。

彼のレパートリーは興味深く、バッハからブーレーズなどの現代音楽まで録音を残しておりますが、慎重に選び演奏・録音したと思います。

そのようなポリーニが残した録音から私のきいた限りの中で個人的オススメ・ディスクについて記載して偲びたいと思います。

 

〇リスト:ピアノ・ソナタ他 (録音:1989年)

初めて買ったポリーニのディスク。高校生の頃に中古ディスクショップにて数百円で購入したものです。

ピアノ・ソナタと名付けられているものの異色の作品という解説の通り、全く理解できずにきいていました。カップリングされている後期の作品(灰色の雲・凶星!・悲しみのゴンドラⅠ・リヒャルト・ワーグナーヴェネツィア)も漆黒の音楽をきかされているみたいで、訳がわからずきいていました(その頃は所有するディスクも少なかったので必然的に1枚をきくサイクルも多くなりました)

しかし、繰り返しきいたことで曲の構造を知り、ポリーニのテクニックのみにならない曲の隅々まで神経の通う明晰な音色で弾かれることで、古典的所要に基づく後世への先駆けとなった作品としてきけるようになりました。また、後期の作品集も後のベルクやシェーンベルクなどの新ウィーン楽派誕生の萌芽を感じます。それがソナタとのカップリングも見識というか、理に適っていますーもっとも彼がハンガリー狂詩曲だ、愛の夢やらカンパネッラを弾くとも思いませんがー後期作品は録音も少ないので貴重でもあります。

 

シェーンベルク:ピアノ作品集(録音:1975年)

わぁ!無調!十二音技法の音楽・・・と敬遠しないでください。浮遊感やパッと火が付き消えていく花火のような盛り上がりと寂しさ、そこはかとなく漂う無常観があり、こういった音楽は冴えた音色で濁りなく弾かれるポリーニでこそききたいです。

これらの作品の構造、和音がどうだ、音列の反行形・逆行形が何かを理解していなくてもそこに流れてくる音楽に真摯に(ながらききでも大丈夫です)耳を傾けていれば自分の耳が鋭くなった気がすること受け合いのディスクです。収録トータル・タイム50分というのも丁度いいです。

まとまったシェーンベルクのピアノ作品の録音は故・坂本龍一教授ご推薦のグレン・グールド盤くらいしか知りませんので、こちらも長くきかれて欲しいです。

 

バルトーク:ピアノ協奏曲第1番・第2番(録音:1977年)

指揮:クラウディオ・アバドシカゴ交響楽団

バルトークのピアノ協奏曲は筋骨隆々で逞しく、特定のスポーツで勝利するためだけに鍛え上げられた体格を持った人間が、並み居る対戦相手をバッタバッタとなぎ倒していくような感じを受けます。それを前面に押し出してきているのがこのディスク。速い楽章での陶酔的なリズムと熱狂。音楽をきいているよろこびか、身体的な快楽としてのよろこびか分からないような感覚になります。

打楽器的に扱われるピアノの音色のピリピリ感、全曲に渡り様々なモチーフ・動機・リズムが登場しますが、その表現の切り替えもレスポンスよく颯爽としています。

アバドの指揮するシカゴ交響楽団も同様です。そのオーケストラの表現力をいちばん感じるのは、第2番第2楽章―第1番も通じて唯一弦楽器によるエレジーのようなメロディーが奏される時、腰が据わった重厚さと静けさの繊細な表現に発揮されているのではないでしょうか。

 

今週は先日亡くなったイタリアのピアニスト、マウリツィオ・ポリーニさんを偲びオススメのディスクからリスト、シェーンベルクバルトークのご紹介投稿でした。

まだご紹介したいディスクがありますが、改めて投稿したいと思います。