シンフォニーを100曲以上、カルテットを80曲以上作曲した多作家ハイドン。ピアノ(クラヴィーア)ソナタも断片・未完も含めると、約60曲を超える作品を残しているそうです。
モーツァルトのピアノ・ソナタが愛奏されるのに対して、ハイドンのそれはどちらかというと教育目的で演奏されたり、音楽学者の研究対象に見られたり、玄人好みという印象もあって一般的なレパートリーとはいえないかも知れません。それは作品も緩徐楽章+フィナーレの2楽章という不規則な構成であったり、ききてを惹きつけるようなメロディーに彩られた曲ばかりではないためという理由もあるのではないでしょうか?また、ハイドンの生きた18世紀は鍵盤楽器の大発展時代でもあったため、初期ではチェンバロを想定して書いていた作品が、中期から後期の作品の頃にはフォルテ・ピアノが登場してきます。どの作品にどの楽器で演奏するのがふさわしいのか?という問題もあります。しかしそういった原典主義のおかげでオリジナル楽器によるハイドンのソナタをきく事が出来るという幸運もありますが(以前きいたアンドレアス・シュタイアーのフォルテ・ピアノによるハイドンのソナタ・リサイタルは作品の魅力をきき手に示してくれるものでした)
ハイドンのソナタの全曲をきいたことはありませんが、きいた事のある作品の中からピアノ・ソナタ第48番Hob.ⅩⅥ:48をご紹介したいと思います。
有名な楽譜出版社ブライトコップに依頼され、1789年から90年頃に作曲されたといわれています。
曲はアンダンテ・コン・エスプレシヴォーネの第1楽章にロンド、プレストの終楽章からなる2楽章形式で、ききものは歌=カンタービレに満ちている第1楽章です。喜び、悲しみの感情がとても豊かにきこえてきます。時には深く物思いに沈んだり―でも決してベタベタしたり濃密にまとわりついてこない、ハイドンらしいさっぱり感が魅力です。この楽章だけで1曲の幻想曲としてでも成立しそうですが、それに続き唐突にロンド、フィナーレ楽章が始まります。ロンドン・セットのシンフォニーの終楽章にも似た旋律は快活で、きき手を楽しませます。
【Disc】
グレン・グールドが最晩年(1981年)に録音したディスクは、ノン・レガートで弾かれるひとつひとつのフレーズに驚きと発見連続です。第1楽章では緩やかなテンポを美しく歌い上げながらもリズム感が犠牲にならず、第2楽章では逆に速いテンポで弾かれて温和なパパ・ハイドンが精悍な姿になっています。