音楽枕草子

クラッシク音楽や読書から趣味などの身辺雑記も含め、感想として綴ったblogです。

チェリビダッケのリスボン・ライヴ

昨年リリース情報を見たときに驚いたチェリビダッケの「リスボン・ライヴ」といわれるブルックナー交響曲第8番のライヴの公式盤をやっときき直し、一応素人なりの試聴記らしきものをかけるようになったので投稿させていただきます。

コアなファンはチェリビダッケのブル8と言えば没後発売されたEMI盤でも、日本公演の映像でもなく、リスボンでの海外公演のライヴ録音(俗にマニアの間では『リスボン・ライブ』と言われていました)が最高と公言(公式盤ではなかったのですが…)していました。

地方都市に住んでいて、現在のようにワンクリックで世界中の物が手に入る時代ではなかったので当時はそんな演奏もあるのか。くらいにしか考えておらず、東京の学校に進学していた時か、ディスク散策に上京した時か、秋葉原石丸電気―懐かしい!今もあるのでしょうか?レコード芸術の目次の折り込み見開きにリリース広告が載っていて、そこにはこちらも海賊盤の巨頭!?のカルロス・クライバーと共に案内があったと思います。

紫だったか、緑だったかのパッケージでチェリビダッケのディスクも並んでいた記憶があります。しかし、カルロス・クライバーの方をたくさん買ってしまい、購入しませんでした。

その噂に聞く演奏はどんなものかと思い、きいてみました。

言うまでもなく、テンポはゆったりとしているのですが、それはただゆっくりしているのではなく、テーマとモチーフをしっかりときかせ、ブルックナーの音響・音色はオルガン的と言われる所以を納得させる美しさ、そして彩色をくっきりと描き出すためのテンポ設定といえます。

当然ですが徹底的に鍛え上げられているミュンヘン・フィルの合奏の精度も大したものです。例えば第2楽章の練習番号Gではヴィオラ・チェロ、続く木管楽器も、それぞれソロで演奏しているような統一感があります。

第3楽章。260小節〜回想・回帰のようで、心の奥底にグーッと明るいわけではなく、不安な気持ちもあります。しかし276小節からは希望の光がさしてくる感じは、前向きな気持ちになる瞬間です。

神秘的で深さや広さ、そして清らかさが宇宙の天体の転回のような音楽が延々と続き、世のブルックナー好きにはタマラナイノですが、ここでの演奏からは「夢幻の如くなり」という言葉がピッタリの儚さがあります。

そして第4楽章は冒頭からコーフンとか熱狂とは正反対のリズムと音色の響きが、ズシン、ズシンときき手に迫ってきます。恐らく、チェリビダッケがこういった勢いに任せてオーケストラが弾きだすところも、楽団員を睨み付け!?コントロール下におきながら振っている姿が目に浮かびます。

583小節〜微速前進となったテンポで、極限まで張り詰めた糸が切れないようにしながら、引きづるような足取りで進む所などもオーケストラの技術の高さを実感しますーこれも厳しいリハーサルの繰り返しと、その蓄積の賜物といえるでしょう。

コーダでは巨石が目前に立ち塞がっているような、自分の力ではどうしようもない迫力に圧倒されます!そこでは第1楽章でしっかりと奏されたテーマが出てきて、ゴールに到達した事がわかります。これはいわばハイドンモーツァルトベートーヴェンからの古典的なーいわゆるクラシック音楽(古典)の原則である、提示部ー展開・再現ー結果が示され、弁証法のスタイルである事が明確に表現されている演奏であり、チェリビダッケはそれをきき手に徹底的に意識させる事に専念した指揮者であることを実感できる録音です(それが「苦手」「ウザイ」という方もいらっしゃると思いますが)

今後もこんな感じでカルロス・クライバーの録音とかライセンス発売があればうれしいのですが。