音楽枕草子

クラッシク音楽や読書から趣味などの身辺雑記も含め、感想として綴ったblogです。

セイジ・オザワ松本フェスティバルへの独り言②

フェスティバルは終わりましたが、先週からの続きで、長過ぎる独り言にお付き合い頂ければ幸いです。

サイトウ・キネン・オーケストラ」はいわば同窓会オーケストラが母体の臨時編成ですが、古今東西こういった寄せ集めオーケストラが密度濃い演奏が成功した例は皆無なのではないでしょうか?それからオーケストラの楽団員―このメンバーに選ばれるとみんな喜んで参加するそうです。どんなオーケストラの奏者でもここに来ればメンバーとして地元から歓迎され、ソロ奏者ならあちらこちらドサ回り公演して歩かなくても、ほとんど飲み食いタダで暑い約1か月間をバカンス気分で(近年は松本もとても暑いですが・・・)弾いていれば誰も文句は言わないのですから・・・確かにその場に居合わせればきれいな響きに感じます。このオーケストラも弦の音なんかとても美しいもので、耳の快楽としては素晴らしい・・・でも本当のプロが創りあげる芸術はそれだけではないはずだ・・・とも考えます。

20年以上昔、ブラームス交響曲第1番をきく機会がありましたが、終楽章で小澤が汗をかきながら、オーケストラの勢いだけでガンガン弾かせるように演奏していた時「ブラームスの音楽はこうじゃない」とガッカリしました。あの内気でクララ・シューマンをはじめ、女性に素直に自分のこころも打ち明けられない男。ベートーヴェン交響曲の後でどんなシンフォニーが書けるだろう?と思案し、やっと完成した作品。かなりいろんな事を意識し、無理して書いたいびつで、屈折していることを感じるシンフォニーであると思います。こんな「汗かきシンフォニー」としてきく(演奏される)音楽ではないと思いました。

また、以前は登場すると思わせて―これにはチケットの売れ行きにも影響するので、分かっていてもギリギリまで公表せず、チケットの注意書き「本人が出演しない場合でも一切の払い戻しはしない・・・云々」を盾に、あくまで「小澤征爾」の名前だけでチケットの販売枚数を稼ぎたいという主催者・在団の商魂が覗いていており、毎回病気等で代役を立てたりするので、私や周囲では「オオカミ少年」ならぬ「オオカミ指揮者」と呼んでいましたが、ついに明らかに振れなくなった今年、映画音楽の作曲家ジョン・ウイリアムズの客演をひとつの目玉にしましたが・・・

それにニュース映像で小澤征爾ベートーヴェンの序曲「コリオラン」を振る?ところを見ましたが、もう「振れていない」ですよね。彼の特徴は俊敏なリズム感にあると思いますが、もうそれを感じることはできません。つくづく芸術家の年齢の重ね方と退き際の難しさについて考えさせられました。

デビュー当時は東洋人にクラシック音楽なんてできるわけがない。という風潮がある中で孤軍奮闘した氏。彼が注目されることにより、その後の日本人音楽家が世界で活躍できるようになる道筋を造られた貢献度は大きいものがあるとあると思います。故に今度は早く自身は身を引き、後進に道を譲るべきではないでしょうか?いつまでもあの姿で出しゃばってきちゃいけないですよ。

追記①:小澤征爾には興味ないのですが、村上春樹氏の著作には興味があったので購入した本について。

小澤征爾さんと、音楽について話をする」(新潮文庫

この書籍は大物同士の対談という表面的なものではなく、クラシックもきき込んでいる村上春樹氏が小澤征爾氏に疑問や思っている事をぶつけて、それに対して答えていくというもので、村上春樹氏の質問力のうまさ、見識の高さが前のめりくらいに出ています。

話題に上がる作品を知っていないと(一般に聴かれる定番名曲ばかりでは無い)ので初心者の方には付いていくのが難しい所もあるかも知れません。

また、「まえがき」や「あとがき」は村上春樹氏のクラシック音楽の接し方、考え方、を知る事ができると共に、「スイスの小さな町で」という1章はクラシック音楽にまつわるエッセイのようで、さりげなく挿入されているのもただのインタビュー集でなく、書籍という作品に仕上げていると思います。

追記②:妻が結婚式場に勤めているのですが、フェスティバル開催期間中はタクシーを呼ぶにも大変らしく、演奏会終わりと式終わりが重なると、タクシー会社に電話しても「オザワセイジのフェスティバルの関係云々…」と断られ続け、遂には電話も繋がりにくくなりそうです。

同僚達は県外からの若い転勤者ばかりなので、そういったフェスティバル自体を知らず「オザワセイジって誰?」「オザワ何とかフェスティバルって何?」「営業妨害なんですけど」みたいな会話が毎年繰り返されているそうです。

以上、セイジ・オザワ松本フェスティバルや、それにまつわる事などを2週に渡り投稿してしまいました。お付き合い頂いた方、ありがとうございました。