音楽枕草子

クラッシク音楽や読書から趣味などの身辺雑記も含め、感想として綴ったblogです。

小澤征爾さん追悼②~おすすめディスク紹介

そろそろ小澤征爾さんが亡くなり四十九日命日になるでしょうか―

改めて彼の功績は、東洋人に西洋音楽など理解できないといわれていた時代、海外で活躍の場を確立したことです。あのウィーン国立歌劇場の監督に日本人指揮者が就任すると考えたでしょうか―ベームカラヤンが就いていたあの地位に―それには小澤征爾が持っていた非西洋人というコンプレックスをその才能により跳ね返した事にあります。その後、日本人演奏家が海外で活動する先鞭ともなりました。それについては彼の演奏内容・質とは別に長く評価されることであると思います。

しかしそれだけの評価を得て一般聴衆の受けは非常によかったのですが、なぜか日本国内の評論家受けはあまりよろしくなかった印象があります。

例えば休刊となった音楽之友社レコード芸術における特集「世界の名指揮者ベスト・ランキング(2009年12月)」―この雑誌の大好きな「ベスト〇〇」物の特集ですが―評論家50人が選んだランキング(物故者も含めた)で52位(同率あり)で選外、読者ランキングでは23位です。その両方を合わせた総合ランキングで34位。

同じく現役の指揮者から選んだ「現代の名指揮者ランキング」では評論家選出では選外。読者選出では4位!の総合ランキングは14位です。(70年代の特集では上位にいるのですが・・・)

このランキングを見ていて面白いのは評論家投票が多いのに読者投票は少ない、またその逆の指揮者もいて面白いです。前者の代表がニコラウス・アーノンクール(現在の名指揮者2位)やエサ=ペッカ・サロネン(同第13位)、後者は大野和士(同14位)そして同じく14位に小澤征爾がいます。ちなみに得票は評論家票1、読者票27です(その唯一の評論家評は故・諸石幸生さんです)

また、関係の深さ、お付き合いの長さからいって、その影響力も絶大だったはずの評論家・吉田秀和さんが残された文章でも彼について書かれたものは少ないような。名前が登場することはありますが・・・。

その扱い?を踏襲してか、吉田秀和さんの死後に増補再出版された「世界の指揮者」にも入ってはいません(クラウディオ・アバドの章で次世代の指揮者のひとりとしてカラヤンが名前をあげている云々、という関連のみ)

それでも彼が大衆の人気があったのは、ちょうど彼がアメリカやヨーロッパで活動をしていた時期が日本の自動車や電機産業の工業製品が海外輸出され、認められていった時期とも重なっています。共に「メイドインジャパン」品質の工業製品と同じ使命や期待を背負わされたのでは?と思いました。

その為に高尚な向きを目指す評論家の皆様には癪に障ったのでしょう。あと「〇響事件」も影響して表立って褒めることもできなかったのでは?とも考えてしまいます(空気を読んだ忖度・慮りなどが働いていたのでしょうか?)

彼の演奏は一聴すると熱気と活力があり、その場・その時はワクワクしてききますが、ではその後に何が残るかというと・・・アナリーゼが不足、細部まで目は届くのですが、逆に部分部分のみで魅せる結果、作曲家はどのように考えて(その歴史的背景まで捉えて)書かれたのかという構成力や説得力がありません。しかし、クラッシック音楽はそういったものでは無い!。と同時期に指揮活動している(していた)のはサイモン・ラトルそしてニコラウス・アーノンクールフランス・ブリュッヘンであると思います。

セイジ・オザワ・フェスティバル(旧サイトウ・キネン・フェスティバル)開催の地元在住なので、実演をきくこともできましたが、いつでもきける(わざわざきくほどでも無い)そして2000年代になると「振る振る」と云ってはチケット完売後に病気を理由にキャンセルばかりになったのでスルーしていました。しかし、小澤征爾の演奏を全くきかないわけではありません。

そんな数少ない聴取経験からおすすめディスクを2枚ご紹介しておきます。

バルトーク管弦楽のための協奏曲(ボストン交響楽団

この作品自体、腕こきの楽団と録音が良ければ基本的に成立してしまうのでバツグンに楽しくきける演奏です。弾むリズムと鮮明な音響!ただ最晩年のバルトークの苦痛や苦悩、作品に込められたアイロニーはきこえてきません。

ストラヴィンスキー:オペラ=オラトリオ「エディプス王」

これは第1回サイトウ・キネン・フィスティバルの出し物の目玉として上演された演目のセッション録音です。

直球勝負のオペラ演目での勝負を避け(資金的な問題もあったのでしょうが)変化球できた作品。当時は第1回のオペラの目玉がこんなマイナー作品??・・・と思っていましたが。

このディスクで気になるのが録音会場。開催に合わせてその年の7月に落成なったメイン会場の長野県松本文化会館(現キッセイ文化ホール)ではなく、そこから車で約1時間の岡谷市にある岡谷カノラホールを使用している事です。音響的な面からか?交通手段・費用面からでしょうか?

確かに岡谷カノラホールの方が音響・客席を含めた設計からすると人口5万人くらいの地方都市にはもったいない(失礼!?)施設です。私はここでリヒテルやツィンメルマンのリサイタル、パリ管弦楽団(指揮:ビシュコフ)、イスラエル管弦楽団(指揮:メータ)やイ・ムジチ合奏団(もちろん「四季」)をきいた思い出があり(それに小室哲也のモーツァルトを題材にした「アマデウス」なるミュージカルまで観劇した記憶も)

ホール全体に音響が豊かでまろやかに広がるのが素人の耳にも判ります。その頃は若年割引を利用して良い方の席できけたせいもあるかもしれませんが・・・それに比べ松本のホールはやや平面気味。。。

演奏のほうは、タイトルロールは上演時と異なるペーター・シュライヤーが務めています。もっぱらドイツ音楽の専門家のイメージでストラヴィンスキーとは珍しい!ここでも真面目な歌唱をきかせてくれます。そしてジェシー・ノーマン。重力級の歌声と存在感で圧倒。この平面的で動きの無い、しかし音楽は複雑な作品をきれいに整えてしまう小澤征爾の指揮。

購入したキッカケはモノラル録音のフリッチャイ盤のきき比べ用として中古で安価だったという理由だけでしたが思わぬ拾い物です。

今回は2月に亡くなった小澤征爾さんの追悼第2回目の投稿でした。

下は松本市の毎月配られる広報からー