今週はアーノンクール/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団による未発表放送録音集の完聴記シリーズVol.7(CD12)の投稿となります。
曲目・演奏家・録音データは以下の通りです。
CD12
ブラームス:悲劇的序曲 Op.81 録音:1996年5月12日
ブラームス:交響曲第3番へ長調 Op.90 録音:1996年1月20日
ドヴォルザーク:聖書の歌 Op.99
クリスティアン・ゲルハーヘル(バリトン) 録音:2004年11月28日
ブラームスの「悲劇的序曲」から―重々しく厚ぼったく演奏され、いかにも「悲劇的」を強調・意識させるような演奏が多いですが、やっぱり新しいきき方の提示になっています。とてもクリアで各フレーズ、モチーフを明確にきかせ、悲しみの表現のみならず憧れ・追想-ロマン主義的なダンディズムも感じる演奏です。
「悲劇」「悲しみ」に浸るというよりも、あくまで「悲劇的」というのは題材で、そこから派生、展開させていく手法をブラームスは楽しんでいると思わせる作品としてきこえます。
主要主題はカッコよく、印象的なメロディーもたくさん出てきますし、和音やメロディーの反復はシューマンからの影響でしょうか?
同年の1月に演奏された交響曲第3番。第1楽章の51小節からの木管の音階の上下降が印象的に表現されています。押しとどめようとしてもどうしようもないような表現。
珍しく!?極端な表現をしていないベルリン・フィルとの録音と同様で、この交響曲が持っているそこはかとなく漂う哀愁をきかせてくれます。
第2楽章、クラリネットによる第1主題の提示部―これがとても古風な響きで郷愁を誘います。それがこだまのように拡がっていく所が素晴らしく、スラーの指示も徹底しています。
128小節のトロンボーンの吹奏はワーグナー風の響きなのが印象に残ります。
第3楽章では61小節から繰り返されるフルートによるモチーフが、交響曲第4番の終楽章と通じているのでは?と思わせます。
第4楽章は後半に進むに従い弦楽器と管楽器のバランスが重要になってきますが、絶妙なバランスできこえます。特に250小節~dimとPの扱い、金管が加わるとより荘重で厳かな空気感と空間を創り出しています。
ディスク3曲目は、独唱がバリトンのクリスティアン・ゲルハーヘルによるドヴォルザークの「聖書の歌」です。
往年の名歌手フィッシャー=ディースカウがレパートリーにしていたので作品の名前は知っていましたが、今回初めて接しました。
ドヴォルザークのアメリカ在住期間中1894年の作品で、テキストはタイトル通りチェコ語の聖書に基づく10曲から成る作品集です(各曲の演奏時間は約2~3分)
出版時は独唱とピアノ伴奏の作品でしたが、後に1曲目から5曲目を1895年に作曲者自身が、ドヴォルザークの死後1914年にツェマーネクというチェコ出身の指揮者によりオーケストラ伴奏に編曲されており、当然ながらこの演奏はその編曲版によるものです。編曲自体はオーケストラの編成も含めシンプルなもので、テキストに添った情景を演出するものであります。
全体にテキストがチェコ語ということもあり、特殊な響きであります。しかし、音楽自体はメロディー・メーカーらしく複雑なところは無く、賛歌風であったり、バラード風であったり、静けさと美しさのある曲が多いので耳馴染みのよい曲が並んでいて、クリスマス頃の夜にきくのに最適な音楽のひとつではないでしょうか?このディスクで魅力を知ることができました。
テキストに基づく音楽表現がされていくので、きいていても変化があり飽きさせません(そのテキストがブックレットに付属していないのは残念ですが・・・)
オーケストラの響きは意図してなのか、ワーグナー風の金管吹奏がきこえたり(第1曲)、マーラー風であったり(第3曲)興味深いです。アーノンクールさんは全体的に音楽の持っているデリケートな面と宗教的な祈り、喜び(賛歌)をしっとりと描き出していて、ドヴォルザークはきっと祖国の風景や親しかった人々との出会いと別れに思いを馳せながら作曲したのだろうと思いました。
今週は第7回まできた完聴記シリーズでした。
お付き合いいただきありがとうございました。