本日は後期ロマン派の作曲家、リヒャルト・シュトラウス(1864年~1949年)の誕生日なので彼の作品紹介に充てたいと思います。
彼の誕生日なら、代名詞ともいえる大管弦楽を駆使した交響詩などの作品群、もしくはオペラなどを取り上げるべきでしょうが、ここでは最晩年の1947年に作曲された、二重小協奏曲 ヘ長調 AV.147をご紹介したいと思います。編成は独奏クラリネット、ファゴットに弦楽合奏とハープのとても小さな編成によるデュエット・コンチェルトです。
大オーケストラ&大音響、スペクタクルな音楽を書いていた彼が、第2次世界大戦でドイツの敗戦と戦禍を目の当たりにし、ワーグナーやリストの影響下に創作をしていた作風から、たぶん本当に好きだったであろう、モーツァルトやメンデルスゾーンのような方向へと回帰していったことは興味深いことに思います。
同時に第一次世界大戦前後にもあった、古典主義的音楽への回顧しようという機運―それにはオーケストラメンバーの不足と、上演の資金不足などという現実的な問題もありましたが。
第1楽章 アレグロ・モデラート
R.シュトラウス流の甘美で人を酔わせるような弦によるメロディーに始まり、そこにしっとりと魅惑的に独奏クラリネットが入ってきます。独奏ファゴットはその後おどけた感じに闖入してきて、クラリネットにまとわりつきます。
第2楽章 アンダンテ
クラリネットとファゴットが歌い交わす、第1楽章と第3楽章を繋ぐインテルメッオのような役割といった感じの短い楽章です。
第3楽章 ロンド、アレグロ・マ・ノン・トロッポ
陽気なだけでなく品の良さもある音楽で、「ばらの騎士」できかせてくれた、粋でロマンティックな踊りの音楽になっています。
後に止めたらしいのですが、当初はアンデルセンの童話「王女と熊」に基づいた標題音楽にしようとしていたらしく、第1楽章では踊る王女の前に熊が登場して求愛をしてくる。第2楽章は恐れていた王女もいやいや求愛に応じて踊り出します。すると・・・第3楽章で熊にかかっていた魔法が解け、王子に戻りメデタシメデタシというストーリーになっていたそうですが、そんなことちっとも気にしないでも楽しめる曲です。
めったに演奏されたり、録音も少ない作品ですが、戦犯容疑で隠棲生活をおくっていた晩年(作曲時で83歳の高齢)でも才能は枯渇しておらず(もちろんこの翌年には名作「四つの最後の歌」も書かれていますが)、古典的な形式+現代的な響き+バロック時代のコンチェルト・グロッソへのアプローチを兼ね備えた作品を書けたことを示しています。
【Disc】
古い録音で申し訳ないですが、この曲を初めてきいたフェレンツ・フリッチャイ指揮RIAS交響楽団、ソロはこの楽団の首席奏者のハインリヒ・ゴイザーのクラリネット、ファゴットがヴィーリー・フークマンによる1953年のモノラル録音になります。
まだ作曲されて数年しか経っていない「現代音楽」として演奏され、きかれていた時代でもあり、演奏者たちもヨーロッパでの戦禍を体験し、連合国の占領下にあった廃墟のベルリンでの録音という時代背景も考えてしまうディスクです。