音楽枕草子

クラッシク音楽や読書から趣味などの身辺雑記も含め、感想として綴ったblogです。

Selct Classic(9)〜ブラームス:クラリネット三重奏曲

秋は室内楽の季節ー

私は秋が深まってくると毎年思うのですー室内楽の季節だなぁ〜と
それも特にブラームスの音楽。その全てではないですが、晩年の作品に耳を傾けるのにとてもよい時期ではないかと思います。
今回はそのブラームスが晩年に書き上た、クラリネット三重奏曲 イ短調 作品114をご紹介したいと思います。
1891年、彼が58歳の時に作曲されました。その前年頃からネクラな、良く言い直すと、内省的で自己批判の強かったブラームスは自分の創作能力が落ちていると感じるようになり、周囲の人たちには作曲活動から手を引くようなことを言い出しました。
それを聞いた友人たちは今で言うニートになっちゃうんじゃないかと心配して、マイニンゲンの街に優れたオーケストラがあるので、ききに行ってみたらどうか?と強い勧めを受けて出掛けて行きました。
そしてそこのオーケストラの楽団員であったクラリネット奏者、リヒャルト・ミュールフェルト(1856〜1907)の演奏をきいて大変な感動を受け、彼のためにクラリネットの作品を書こう!と再び創作する気持ちが生まれたということです。
こうして全部で4曲のクラリネットのための作品が書き上げられました。中でもクラリネット五重奏曲は、モーツァルトのそれと並ぶ古今の傑作として名高いものの他、ソナタが2曲、そして今回ご紹介する三重奏曲が残されました。
三重奏曲と五重奏曲は同時期に書かれのですが、知名度、演奏頻度、録音数の全ての部分で五重奏曲に圧倒されています。でも、個人的には余りにも枯れきってしまったような五重奏曲に対して、三重奏曲の方にはまだみずみずしさが残っていて、完全に赤く色付いてしまう前の紅葉を思わせるところが魅力に感じますので、こちらの作品ももっときかれていいと思います。
編成はモーツァルトにもある三重奏がクラリネットヴィオラとピアノという組み合わせに対して、ブラームスヴィオラに代わりチェロを入れています。これはモーツァルトヴィオラを弾くことを想定した書いたのに対し、ブラームスの方は音色的にもっと低い音が欲しかったのでしょう。
曲は4つの楽章から出来ていて、第1楽章がアレグローチェロが奏するモノローグのようにして出てくるテーマが印象的です。シューマンのチェロ・コンチェルトの出だしを連想するような深い物思いに耽るようなメロディー。それに応えるようにしてクラリネットがしっとりと入ってきます。ここだけでウットリときき惚れてしまします。
ミュールフェルトの演奏をきいて、その興奮が冷めないまま、楽想が湧き出るようにして書いたと思われるくらい、熱気や勢いがあります。
第2楽章はアダージョ。ここは息の長いメロディーが深々と歌い上げられていき、まさに深まる秋を感じる哀愁がたまりません。
第3楽章アンダンティーノ・グラツィオーソ=優美なアダージョというのにふさわしい、軽い舞曲風のリズムが特徴でJ.シュトラウスブラームスの親交があった事を思い出します。また、トリオの心地よい響きもイイです。
第4楽章アレグロ。生き生きとしたリズムがあって、ブラームスが『私には昔、「ハンガリー舞曲集」という野性的でチョット粗野な素材を見事にさばいて書いた作品があったんだぞ!まだまだ書けるのだ‼︎』と心の中の喜びが表に現れてきたように、熟成とみずみずしさが同時に伝わってきます。
【Disc】
長くベルリン・フィルの首席奏者を務めたカール・ライスターが、同僚のゲオルク・ドンデラーのチェロ、ピアノはクリストフ・エッシェンバッハと共演したディスクは、三者のバランスがうまいと思います。ライスターの重すぎず、華もある音色がこの三重奏曲にはピッタリです。