音楽枕草子

クラッシク音楽や読書から趣味などの身辺雑記も含め、感想として綴ったblogです。

演奏会~NHK交響楽団 伊那公演

古楽器演奏の大家、トン・コープマンNHK交響楽団客演の地方公演をきいてきました~2023年9月24日(日) 長野県伊那文化会館~プログラムは以下の通りです。

1曲目、モダンオーケストラとしてはかなり小編成で、ファーストヴァイオリンで6人(スコアには無いファゴットが1人追加されているが、これは通奏低音的で、低音部の強化という事だろうか?プログラムには記載が無かったのでその理由を知りたいです)それ故にコープマンと演奏家のコンタクト、ひとりひとりの息遣いや感じられるものです。また、作品自体も複数に渡るイタリア旅行で吸収した、良く歌う明るいメロディー、そして直前に旅行したウィーンで得た室内楽的な声部の絡み合い・和音などの構成の仕方が見事に融合している作品で、特に第1楽章などは若い青葉の香りや清らかなものを感じることができる音楽で、演奏ももちろん所謂「モーツァルトらしい」と多くの人が感じるものになっていました。冒頭から穏やかでありながら、メリハリのついた開始にモーツァルトっていいな〜と実感できる瞬間です。

おや?と思ったのは終楽章のテンポが前3楽章と比べてほんの少し、幅を持たせて音を噛みしめながら進んだ事。アムステルダム・バロック管弦楽団との録音ではそれほどのテンポに差を出していなかったので(使用している楽器・彼の組織した楽団との演奏を一概に比べることもできませんが)もちろん、昔のカール・ベームではないにしろ、彼のイメージ的に小川で魚がスイスイと泳ぐようなスタイルを想像していたので意外でした。実演ならではの面白さです。

2曲目は首席奏者の神田寛明さんをソリストに第2番のフルート協奏曲。

モーツァルトにとってフルートは我慢がならない楽器だったそうですが(他にトランペットも苦手というエピソードもありましたね)当時、音楽文化度が高かったマンハイム旅行をした際、音楽愛好家からフルートを用いた複数の作品の作曲依頼があり、渋々と書いたものの、コンチェルトは2曲の注文だったのですが、作曲するのが嫌になってしまったのか、この第2番はザルツブルクで作曲されていたオーボエのコンチェルトを移調・改作して転用して渡したものの、それがバレて報酬が減額された。というエピソードと共に知られているフルートのレパートリーとして定着している協奏曲ですが、私は以前からこのエピソードに疑問を持っています。まず原曲といわれるオーボエ協奏曲にしろ、フルート協奏曲の方も自筆譜が失われており、どちらが先に書かれたかも判明していない事です。

そして現在のようにネットワークが発達しておらず、楽譜も直ぐには普及しないこの時代、特にザルツブルク宮廷の一介の雇われ&青年作曲家の作品がマンハイムまで知られていたとも思われません。

誰か他にこのエピソードについて知っている方が入らっしゃればご教示下さい。私の推測は青年特有の飽き性(他に興味のあること・気になる事が起きていた?)でやっつけ仕事になり、納期を守らなかった為、依頼主もケチだったので、それを理由に報酬を減額したのでは?と思っています。

すみません、話が逸れました。いずれにしろ、そういったエピソードを知らなくてきいても、フルートの持っている典雅な響きが、ニ長調に移調されたことで華やかさが増しているので、これがオリジナルのフルート協奏曲としても違和感がありません。

神田さんのソロは典型的なフルートからイメージする「清らか」「爽やか」な音色です。また、もとよりこの協奏曲自体がソロvsオーケストラというものではないので、「同じ釜の飯を食う仲間」がソリストを演じるので、メンバーも一生懸命支え、盛り立てよう!といういい意味で和気あいあいとしており、コープマンもそれに応えたような指揮になっていました。

詳しくないのですが、カデンツァは誰のものだったのでしょうか?神田さん自作でしょうか?

アンコールは「ドン・ジョヴァンニ」の「ぶってよマゼット」の主題によるアリエッテ(無伴奏フルートのための幻想曲 Op.38-1~)作曲者はクーラウ(ピアノ学習用のソナチネで有名ですが、フルートの作品もかなりの数を残しています)

3曲目は三大交響曲から第39番。ここでは当然編成も一回り大きい編成なります。

第1楽章の序奏はリズムがはっきりと刻まれ、生き生きと弾みます。そして優雅な響きはリュリやラモーを連想するフランス・バロックの序曲を彷彿とさせ、そこから第22小節からは神秘的な響きとなり、こちらは古典派を越し、ロマン派の先駆けみたいな感じを受けます。

主部アレグロの躍動感からは、この交響曲の持っている祝典的性格を描いているようです。

第2楽章はしっとりとしていても、ベタつかないNHK交響楽団の優秀な弦楽器群を堪能しました。

第3楽章のトリオではクラリネットが遊び心ある装飾音を付けて吹いていました。これはアムステルダム・バロック管弦楽団との録音でも実施していたので、期待していたらやっぱりやってくれました!

クラリネット奏者は山根孝司さん。NHK交響楽団の演奏会などTVで何回も観ており、その腕前は言うまでもありません。難なく軽々と吹いていました。隣のフルートにはソリストを務めた神田さんが座っており、クラリネットとの重奏部分も素敵な響きをきけました。

その装飾音を付けるスタイルは終楽章でも炸裂。これもコープマンは録音でも実行済でしたが、最後の第260小節からのコーダの最後の終止部においてティンパニが装飾的な打撃を加えて曲を閉じ、聴衆を驚かしました(こちらお馴染みの首席、久保昌一さんでした。使用マレットは当然古楽器仕様のヘッド部分が小型の堅いものでした)

ハイドンの「太鼓連打」交響曲でもあるまいし・・・とも思いますが、これも演奏会だから許される?技のひとつかもしれません。コープマンらしいユーモア。そして音楽を奏でる喜びと楽興の瞬間の楽しみを感じました。

彼の解釈はフォルテとピアノの対比がはっきりとしており―古楽演奏スタイルは概ねそういった手法をメインとしておりますが、行儀の良い!?NHK交響楽団がどのように対応するかと思っていましたが、速い楽章での音のぶつかり合いがきけたのは良かったです。

これも以前からホグウッドやノリントンなど古楽器演奏家を客演に迎え、その演奏方法を習得してきた影響もあるのでしょう。日本のオーケストラの水準が進化・向上し続けている事を実感しました。

また、同一プログラムによる複数公演(東京―名古屋―長野)を繰り返し、コープマンも神田さんもオーケストラもこなれてきたのかな?とも思いました。

トン・コープマンの指揮に接するのは約30年ぶりでした。1944年生れなので、10月がくれば御年79歳を迎えられます。ステージでの指揮姿や歩く姿、そしてお辞儀をする姿を観ても年齢を感じさせない動きに安心しました。

古楽器演奏やそのスタイルをモダン・オーケストラまでにも影響を及ぼし、きき手もそれを当たり前に受け入れるようになり、音楽界において市民権を与えたレオンハルトアーノンクールブリュッヘン、ホグウッドが亡くなり、ノリントンは引退。残っているガーディナーピノック、そしてコープマンにも長命と積極的な活動ができるように願います。

なお、本日(9月30日)16:00からNHK -FMにて同一プログラムの第1991回定期(9/月20日)の録音放送があるそうです。自分のきいた演奏会と比べてみたいと思います。

追記:このホールは旧城郭に隣接して建っており、20歳代に女性とドライブを兼ねて花見に行った事を思い出し、早めに出掛けて城址公園内をブラブラと歩きました(妻には言えないですが・・・)

 

 

30年前バッハのブランデンブルク全曲演奏会で書いていただいた

トン・コープマンのサイン