ロシア出身のピアニスト、イリーナ・メジューエワさんがバッハからラヴェルまでピアノの代表的な作品について語っている本を中古で入手して読んでみました。
「ピアノの名曲」聴きどころ 弾きどころ(講談社現代新書2017年刊)
彼女は定期的に来日して録音も若林工房というレーベルから発売されており、その評価も高いのできかれている方もいらっしゃるかと思います。私は以前投稿したグリーグの抒情小曲集などデンオンとの録音が印象に残っています。
入門書・初心者向け的な顔つきをしていますが新書サイズとは思えない専門書的な知識を得られます。しかし、名曲紹介と言っても安易な選曲でないのもヨイです。例えばベートーヴェンはピアノ・ソナタ大32番、シューベルトはピアノ・ソナタ第21番、リストもピアノ・ソナタなどビギナーにはシンドイ作品が並びます。
以下、ざっと取り上げられている作品を記します。
第1章 バッハ 平均律クラヴィーア曲集/ゴルトベルク変奏曲
第2章 モーツァルト ピアノ・ソナタ第11番「トルコ行進曲付き」
第3章 ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第14番「月光」/第32番
第4章 シューベルト 即興曲 作品90~第3番/ピアノ・ソナタ第21番
第5章 シューマン 「子供の情景」~「トロイメライ」/クライスレリアーナ
第6章 ショパン 練習曲集 作品10~第3番「別れの曲」/ピアノ・ソナタ第2番
第7章 リスト ラ・カンパネラ/ピアノ・ソナタ
第9章 ドビュッシー 「ベルがマスク組曲」~第3曲「月の光」
説明には多くの譜例を用いて音型や調性、弾き手としての裏話や弾き方などが語られているのでピアノ作品を好まれるリスナーにはきく楽しみが増し、ピアノを習っている方、または実際に人前で弾ける方が読むとプロの演奏家ならではの気配りや譜読みに気付きがあると思います。
各作品が短い文章のなかで適切かつ的確な説明になっており(若干の楽典の理解が必要ですが)取り上げられている作曲家やその作品に対し、今までボンヤリと感じていたことがハッキリして、スッと腑に落ちました。
また、彼女の作曲家や音楽への嗜好も垣間見られるのも面白です。その理由も音楽の形式上から具体的な説明の上なので納得します。第9章のラヴェルはまだ録音もしていないので今後手掛ける、と語っています(この本の出版から数年が経過するので既に取り上げているのかな)
タイトルにもあるように「聴きどころ」を教えてくれるので、きき慣れた作品でも新しい発見への指南になります。また演奏家は楽譜のどのようなところに注視しているのか参考になります。自分が楽譜を見る時にも実践してみようと思いました。
そして各曲の最後に「おすすめの演奏」の項目があり、一般的な名曲名盤選では出てこないピアニストならではの視点による録音紹介が興味深いです。
ロシアで音楽教育を受けているのでロザリン・テューレックやマリヤ・グリンベルグ、ヴラディーミル・ソフロニツキー、ゲンヒリ・ネイガウスといったマニア向けのピアニストは納得ですが、アルトゥール・シュナーベル、ついにはエミール・フォン・ザウアーやイグナツィ・ヤン・パデレフスキといった歴史上のピアニストといったほうがふさわしい方の録音も紹介されるのには驚きです(リストの「ラ・カンパネラ」)
きいたことも目にしたこともありませんが、紹介しているということは録音が残っているのですね。
もちろんミケランジェリやフランソワ、リヒテルといった定番ピアニストも出てきますのでご安心を。
同様の内容で第2弾も期待したいです。今回登場した作曲家の他の作品や、彼女が若いときから熱を入れているメトネル。そしてブラームスやお国もののラフマニノフなどの構成で。
本の帯には「代表的なピアノの名曲を平易に解説。」といいながらも、なかなかマニアックで内容の濃い、今後も必要に応じて読み返したい書籍と出会えました。