音楽枕草子

クラッシク音楽や読書から趣味などの身辺雑記も含め、感想として綴ったblogです。

演奏会~山田由希子 ホールオルガニスト就任記念コンサート

事前入場申込み制、全て満席との事前アナウンスが出ていた松本市音楽文化ホール(ザ・ハーモニーホール)のホールオルガニストに2024年4月から就任された山田由希子さんの記念コンサートに出掛けてきました。

そのため来場者数も多いので早めに会場入りしようと考えていましたが、仕事が午後から押してしまい、そそくさと仕事を切り上げ会場時間前に並ぶことができました。

このホールのオルガンはできるだけ前の席に座り、思い切って低音をカットしてきくのが良い、とホールが建設されたときからよく知る先人達のアドバイスに従い、毎回オルガンに限らずステージ前に近い席できくことにしていますが、今回もそのようにしてききました。

プログラムは以下の内容です。

冒頭のブルーンスは2014年4月に前々任の保田紀子さんの退任リサイタルでもプログラムの1曲目でした。

ありがとう保田紀子オルガンリサイタル - 音楽枕草子 (hatenablog.com)

その時初めてきいて「大バッハのオルガン作品があれば他は無理にきく必要はなし」という認識を改めさせられ、いっぺんで気に入ってしまい、それから他のオルガン曲だけでなくカンタータなどもきくきっかけになった作品です。ニコラウス・ブルーンスは1665年にドイツ最北端の州シュレヴィヒ=ホルシュタインに生まれ、1697年に32歳という若さで亡くなったことと、作品も散逸してしまったことで現在残っている作品は少なく、オルガン独奏曲も僅か数曲です。

20年後に生まれた大バッハも影響を受けたといわれるその音楽は壮麗さと厳格さが融合しており、その時代の音楽に詳しくはないのですが、明らかにブクステフーデなどとは異なり音色が豊かで多彩です。

知らないできけばバッハの作品と思うくらいその繋がりをきくことができます。

経歴によると山田さんはオランダ留学をしていたそうで、その関係もあるのでしょう、所縁のあるスウェーリンクとラインケンという2人のオランダ出身の作曲家の作品もきくことができました。

その作品は小型のオルガン、ポジティブオルガンで弾かれました。スウェーリンクは素朴で押し付けがましさの無く、昔遊んだロール・プレイングゲーム「ドラゴン・クエスト」で街の宿屋や酒場などに入ると流れてきた音楽を思い出しました。

そしてプログラム前半の目玉は大バッハの有名な18のコラールからの1曲とオーケストラ編曲などでも知られる「幻想曲とフーガ」です。

特に幻想曲とフーガは溢れ出るような音の流れにききては引き込まれていきます。これが300年前の教会に響いていたとは!当時としては前衛的な響きで、厳粛さと壮麗さが同居しています。そして目くるめくフーガにより圧倒的な存在感を示すこの作品。やっぱりバッハがブクステフーデやブルーンスを研究していたことを改めて認識します。

前半だけでザッとドイツを中心としたオルガン作品巡りのプログラム構成になっており、パンフレットにも書かれている『オルガン音楽の歴史を辿る―変遷の偉観、バッハの追想―』のうち「歴史」と「変遷の偉観」が前半で整いまいした。

休憩を挟んでの後半は「バッハの追想」として、シューマンブラームスが演奏されました。

シューマンのオルガン作品ははじめてききましたが、まんま彼のシンフォニーをオルガンで演奏したらこうなるのでは?と感じました。彼らしい節回しやオルガン特有の重奏(層)が随所で響き、「ライン」や「春」などが頭の中を過りました。

ブラームスは晩年に残した間奏曲と同様「シブさ」がより「シブさ」を増したような音楽。ポジティブオルガンで弾かれることによりより一層それを感じると共に、落ち着いた美しさをもった作品としてきけました。

フランスを代表するオルガン音楽の第一人者フランクも弾かれました。

彼の代名詞「循環形式」+「哀愁あるメロディー」+「対位法」をたくさん盛り込んだ音楽で、まさにバッハへのオマージュといえるものですが、それゆえにやや過剰に作り込みすぎて凡長気味なところも感じなくはない作品でした。

プログラムの最後はロマン派オルガン音楽を代表するフランツ・リストの作品。

やはりリストもバッハの影響を受けたそうで、この作品もまさにバッハへのオマージュともいえます。

バッハ(BACH)をドイツ語の音名にした=「シ♭・ラ・ド・シ」をテーマとして、テクニックは技巧的、フーガの展開も最大限に拡大されます。

ピアノばりのテクニックと拡大されたフーガの展開をきけば、シンフォニーがハイドンモーツァルトからベートーヴェンブラームスそしてブルックナーマーラーへと拡大発展したのと同様に、オルガン音楽もそれがリストにおいてなされたことを実感しました。

まさに「オルガン音楽ヒストリー」を一夜にして堪能できるプログラムでした。

山田由希子さんの演奏は明晰な音運びと明るく流麗、またオルガン音楽とはあまり縁のない「詩情」を初めて感じました―フランクやリストにおいて。こういった新鮮な経験ができた事に感謝です。

山田由希子さんは古楽を中心に研鑽を積んでこられたそうですので、今後伝統的なオルガン作品をきけることに期待したいです。

PS.基本、事前申し込みのみの無料コンサートとはいえ聴衆の質は残念。

音楽をきく場というより井戸端会議のお喋り、そして演奏中には居眠り―演奏中の咳やくしゃみはもとより、さまざまな雑音(物を落とす音、ペラペラとプログラムをめくる音など・・・)―演奏家は集中してステージに上がります、その緊張感や空気感を創りあげるのも聴衆の力だと思います。しかし今回は(今回も?)音楽を「きく」意志が伝わってこない会場でした。

東京などでの会場では今回の聴衆より3倍以上いても静粛な空気となる瞬間を経験することが多々ありますが、ここでは皆無。やはり地方都市の文化レベルの差でしょうか。

参考までに以前投稿した前任の原田靖子さんの退任コンサートの感想記のリンクも貼っておきます。

こちらもお付き合いいただければ幸いです。

夜オルガンVol.13 原田靖子 - 音楽枕草子 (hatenablog.com)