音楽枕草子

クラッシク音楽や読書から趣味などの身辺雑記も含め、感想として綴ったblogです。

Selct Classic(5)グリーグ:抒情小曲集

何も考えないで音楽をきいたり、夜寝る前の時間があるときよくかける音楽に、スカルラッティソナタ集の何曲か、そしてグリーグの抒情小曲集があり、こういった小品でも「十分に音楽をきいた」という満足感を与えてくれる作品ひとつであると思います。

グリーグの抒情小曲集ではスヴャトスラフ・リヒテルが1994年の来日公演で弾いたものが忘れられません。当時、一流ピアニストが地方都市ーそれも県庁所在地ではない小さい市で演奏会があることを奇跡にも感じた私はすぐにチケットを購入しました。公演日も延期、演奏曲目も未定という状況だったので、彼の年齢を考えると本当にきけるのか?不安なままコンサート当日を迎えました。会場で受け取ったプログラムが全編「グリーグの抒情小曲集」と見たとき、バッハ、モーツァルトベートーヴェンあたりを期待していたので、当時は馴染みの無かった曲目にテンションが下がったのを覚えています―ステージが暗くなり、スポットライトを浴びたピアノの前に登場したリヒテルは笑顔なく、軽く会釈し座ると「アリエッタ」Op.12-1を弾き始めました。

その音楽が始まった途端、さっきまでの落胆は忘れました。

なんという静けさ!清らかさ!ありきたりの表現ではありますが、北欧の空気感がホール中に溢れました。それがくつろぎとか穏やかさを与えるものではなくて、多少冷たさの残る緊張感がありました。私はじっと座って身じろぎしないで彼を見つめてきき続けたことを思い出します。リヒテルは楽譜を置いて弾いていましたが、その姿に楽譜と孤独に対話をしているという思いを強く感じました。

           

来日公演のパンフレット・プログラム

【Disc】

メジューエワのディスクは物語を感じるような語り口で各曲集それぞれの絵が目の前に浮かんでくるような素敵な演奏です。

         

「春に寄す」Op.43-6では寒い冬を乗り越えたからこそ感じられる春の空気がそっと流れ、まだそこには冷たい風、小川の流れまでがきこえてきます。

「森の静けさ」Op.71-4 静寂の中に音楽が宿っているみたいなきれいな曲で、後半4分50秒くらいから研ぎ澄まされた音がダイレクトにきき手に響いてきます。特に鐘の音を模したと思われるところは自分の感性が鋭くなった気がします。

こう書いた所の表現は指先のテクニックだけでない、演奏家・音楽家としての美感が問われる箇所ですが、メジューエワの表現に引き込まれます。

*現在はベテラン・ピアニストとして評価の高い彼女のデビュー間もない頃、2000年の録音で、20曲が収録されています。

この曲集は、グリーグがまだ若いころから晩年まで、生涯に渡って書き連ねたものなので、全66曲が第10集に分けられて出版されたもので、全てをきいたわけではなく、まだ半分くらいしかきいたことはありませんが、順にきいてくると後期になればなるほど曲が多面的になって、陰影が加わってくることを感じます。また、こういった作品は森・山・川そしてそこに住む動物といった自然豊かな所を知らないと書けない曲なんじゃないかと思います。当然ですが作曲家に自然環境というのはとても大事なものの一つであることを実感しました。

こちらは定番ともいえるエミール・ギレリスのディスクです。