「春」といえば気分が晴々して心躍る季節ですが、私の住む地域では朝晩に気温がぐっと下がり、先日は積雪を伴う降雪もあり、まだ冬の面影を残しているなぁ~と感じます。そういったときは「死」や「怯え」などを時として感じるシューベルトやヴォルフのリートではなくて、シューマンのリートをききたい気分になります。
今週はそのドイツ・ロマン派を代表する作曲家のひとりロベルト・シューマン(1810~1856)のリーダークライス作品39です。
同名の作品24という全9曲からなる作品などと共に1840年、彼の生涯では「歌の年」といわれる時期にまとめて作曲されました。その後手は加えられたそうですが。
「リーダークライス」とは「歌の環」というニュアンスの意味で各詩が連携して一貫したストーリーを持つ連作歌曲(シューマンなら「女の愛と生涯」や「詩人の恋」、シューベルトなら「美しき水車小屋の娘」や「冬の旅」)ではない歌曲集に、暗示的な意味で関連をつけるために名付けた作曲者による造語であるといわれています。
歌詞はドイツ・ロマン派の詩人アイヒェンドルフ(1788~1857)の詩による全12曲からなっており、それぞれが特徴のある曲ばかりですので詩を含めて全てを挙げていくとキリが無いのでセレクトします。
第1曲「異国にて」 ハープをイメージしたピアノの伴奏にのって静かに『遥かなるふるさとを想えば~』歌いだされると、遠い場所に誘うように物語へと引き込まれていきます。
第3曲「森の語らい」 舟歌風の横に流れるメロディーが詩に出てくる誘惑された騎士を呑み込むローレライを表していると思います。そして曲はここにきてより非現実的になって深い森へと入っていきます。
第5曲「月の光」 ドビュッシーを連想するようなピアノのメロディーが、夢か幻を見ているようにして月夜が描かれるところに注目です。
第6曲「美しい国」 前曲の余韻を引きずりながらも幸福感があります。ピアノ伴奏だけでも小品なような書かれ方です。
第7曲「古城から」 名前の通り「荒城の月」か?と思うほど「西欧のロマン」か「日本の無常」の違いだけで雰囲気が似ている詩です。
第9曲「憂愁」 12小節~13小節の『私は嘆く~』での節回しは心に響きます。
第10曲「たそがれ」 ピアノが下降上昇を繰り返す音型が5回出てくるのですが、これが前衛的で印象に残ります。
第12曲「春の夜」 森や鳥、風など自然の音がきこえてきて、小刻みに鳴るピアノの伴奏からは胸の高鳴りを示しているようで幸福感いっぱいになります。将来の結婚するクララのことを想いながら書いていたのでしょうか?
深い森へ分け入っていくというテーマ(詩)=きき手の心の奥底(闇)を覗き込むような心境になる音楽で、外面的な「旅・冒険」に出かけるというよりは内向的に「心の旅」をするといった感想を持ちます。そしてうまく「夜―闇」と「春―明」を対比し並列されている音楽だと思います。と、書いていますが、初めてきいた時はそういったことを全く感じとることはできず、最近になって興味深くきけるようになりました。これからきく方も繰り返し接することをオススメします。
↑シューマンの歌曲をきく時の手引書-訳詩も古風でかなり年季が入ってます。
古本市の売れ残りをタダで頂いたものです。
《Disc》
ここはやっぱり大御所バリトン、ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウがクリストフ・エッシェンバッハのピアノに伴われて録音している1975年の演奏で。彼の喜怒哀楽の表現がうますぎてハナにツク時もありますが納得させられてしまいます。そしてエッシェンバッハの弾くフレーズのひとつひとつが「リーダー暗いス」してます(失笑・・・つまらなくてスミマセン。。。)
そして録音媒体ではないのですが、日本人のテノール歌手で注目している方がいます。
高島健一郎さんです。
いまやクラッシク音楽において(この分野自体が衰退市場ですが。。。)特に絶滅危惧種となりつつあるリートの分野。そこに留まらずオペレッタなど幅広い活動をされ、素晴らしい歌唱をされている高島さん。
若い方が積極的に高いレベルで活動されている事は頼もしいです!!
ここにYouTubeのリンクを貼っておきます。
(1) Liederkreis op. 39 - Robert Schmann リーダークライス op. 39【日本語訳付き】 - YouTube
このように日本語対訳の連動した動画を作り込み、丁寧な歌唱をきくとドイツ・リートの魅力を感じてくれるリスナーもいらっしゃると思います。
是非機会があればリサイタルをきいてみたいと思っています。