今年発売され購入したディスクから印象に残っているもの、皆様にもご興味があればおききいただきたいディスクのご紹介の投稿をしたいと思います。
○ベートーヴェン:マーラー編曲による交響曲第3番・第5番・第7番・第9番、管弦楽曲集(CD3枚)
指揮:マイケル・フランシス/ラインラント=プファルツ州立フィルハーモニー管弦楽団他
現在、ベートーヴェンの交響曲を演奏する場合においてピリオド奏法を反映させるのか否かは避けて通れない事になっています。当然ききてもそれに関心をもって耳を傾けてもいます。いっそ第3の方法を取ろうと変化球を投じてきたのがこのディスクです。
マーラーは生前作曲家のみならず指揮者としての活動もしていたことはご存知かと思います。先人の作品も数多く指揮しており、その際は当時としては当たり前であったのですがスコアに独自に手を加えて演奏していました。これはマーラーに限らずワーグナーやベルリオーズも実施しています。
現代の原典尊重主義の風潮から見れば作曲家への敬愛が足りない!冒涜だ!と思われますが、その当時は「作曲家が現在のような楽器を知っていればこう書いていたハズだ」「作曲家が求めていたのはこのような響きだったハズだ」という考え方が一般的だったのでしょう。
そのマーラーがベートーヴェンの作品を「編曲」したものをまとめてきくことのできる珍しいディスクです。
実際に音としてきけるのは興味深く、発見も多いです。
収録された全ての作品の事を書いていたらキリがないので特徴的な所を挙げていくと、まずコーダやクライマックスでの金管やティンパニを加えて盛り上げていることです。そしてベートーヴェン時代の楽器では吹けなかった音階やメロディーの吹奏をローローと吹かせていることです。
一例を挙げると、交響曲第9番の第1楽章318小節からの堂々たる鳴りっぷり!まるでワーグナーの楽劇をきいているみたいな印象です。他には同曲の第3楽章の美しいメロディーの流し方などはマーラーの交響曲との共通性も感じました。
ゴージャス&贅沢なサウンド―分厚いビーフステーキに濃厚なソースをかけて食べるような―やや胃もたれしそうな瞬間もありながらも、指揮者の指示にレスポンスよく反応し、機動性と軽快さも持ち合わせています。これはマーラーの編曲版に書かれているのか、ピリオド奏法も取り入れた結果そうなっているのか不明ですが、テンポも速いので編曲版云々とは別にとても現代的な―良い意味でベートーヴェンの交響曲を新発見しました。
中途半端なピリオド奏法まがいの現代オーケストラが演奏する―また肉つながりになりますが、解凍を失敗した肉汁も無く、パサパサしたステーキを食べさせられた時のような、貧血気味のオーケストラ・サウンドをきかせられるよりはこちらの演奏の方がよほど潔くきき応えもあります。
ちみに今年は交響曲第9番の初演から200年とのことで、私の年末の第九はこのディスクになりました。
○ベートーヴェン:ミサ・ソレムニス
指揮:ジョルディ・サヴァール/ル・コンセール・デ・ナシオン、ラ・カペラ・ナショナル・デ・カタルーニャ他
ベートーヴェン被りになってしまいましたが、サヴァール氏は昨年のモーツァルトのレクイエムに続き素晴らしいディスクの登場です。
相変わらずオーケストラの精度は高いですが、合唱の軽快で美しく、澄み切った清らかな歌唱に魅了されました。
さすが長年に渡り宗教作品で培ってきたヨーロッパの音楽文化の深遠さを改めて敬服します。
この作品は「荘厳ミサ曲」とも訳され、どことなく楽聖ベートーヴェンが晩年に作曲した最高傑作として演奏家は構えて取り組み、ききては背筋を伸ばしてきかなければならないイメージの作品ですが、この録音からはそのような感じは受けません。
御年80歳を超えようとするサヴァール氏は枯れることなく、先の交響曲全集録音できかせたようにエッジの効いた音色とアグレッシブなサウンド、コーラスも軽快で明るい歌声でグレゴリオ聖歌や中世ルネサンス音楽のようなハーモニーで斬新な表現で驚かせてくれます。
ベートーヴェンは作曲する際にメモ帳を活用し、思い浮かんだモチーフや楽想をそこに記載して同時に何曲かを並行して作曲していったといわれますが、スコアを見ながらきくとこのミサ・ソレムニスにも交響曲第9番との関連を示唆するようなフレーズを気付かせてくれます。また、上昇音階、下降音階が巧みに組み合わされ、四度の上昇、三度の下降、減五度の音階を中心に全曲構築の核となっていることも認識します。
そしてアニュス・デイにおける歌詞「パーチェム(平和)」「ミゼレーレ(主よ憐れみたまえ)」の取り扱い方も印象に残ります。まさにべートーヴェンの心情の吐露のようにきこえてきます。
改めて時代がこの作品を求めているのではないだろうか?と思いました。年末に「歓喜」「歓喜」と第九をきいたり歌ったりすることもヨイですが、ミサ・ソレムニスにも耳を傾けてみてはどうでしょうか?
「この作品はどうも・・・」と思っている方にもオススメできるディスクです。
指揮:フィリップ・フォン・シュタイネッカー/マーラー・アカデミー管弦楽団
バロック、古典派、ロマン派の音楽を古楽器で演奏することは全く珍しいことで無くなり、後期ロマン派、近代までもそのスタイルで演奏することはひとつの選択肢になってきていますが、やはりマーラーの交響曲、それも第9番を時代楽器使用の録音が登場したとなるとやはりきいてみたくなります。
このシンフォニーはマーラーが死を意識して書いたとか、作曲者生前には演奏されなかったので構成上も問題というか、まだ手を入れていただろう、という箇所もある。などといわれますが、マーラーを代表する作品であり、古今の交響曲作品の代表作のひとつとされ、その録音数も古くはワルター、クレンペラーからカラヤン、ショルティ、そしてバーンスタインやテンシュテットなど、今や指揮者必須のレパートリーと言えます。
このように多種多様なディスクがひしめく中に登場したこの録音、時代楽器使用とは別に表現方法として存在感を発揮できるものであると思います。
ヴィヴラートを抑えた響きにより、ほかのシンフォニーに比べて弦を主体とした繊細なオーケストレーションの特徴を良く表現していると思います。
各声部、ソロも含めて旋律の絡み合いがはっきりときけます―第1楽章38小節ではフルートとホルン、弦楽器
が、第2楽章の練習番号23など―また、弦楽器の配置が対向配置であることもメリットになっています。第4楽章は弦楽器が主体となり音楽を進めていきますが、まさにそれらの効果が非常に発揮されていると思いました。
録音や実演でもそうですが、消えてしまいそうなハープも分離よく、埋没しないできこえてきます。
この演奏から感じるのは古典的な美意識やバッハの管弦楽組曲まで遡るくらいの舞踏リズム要素(中間の第2楽章・第3楽章)を根底に持っている交響曲であることを感じました。
このディスクの商品上の特徴は全4楽章が30トラックに分けられており、初心者でも曲のどの辺りなのかトラック番号を参照すれば迷子にならない親切、丁寧そしてレーベルのこだわりが感じられる創りです。
長文となりましたので第2弾は後日アップします。
引き続きお付き合いいただければ幸いです。