音楽枕草子

クラッシク音楽や読書から趣味などの身辺雑記も含め、感想として綴ったblogです。

「ギリシア人の物語」塩野七生さん著(新潮文庫)全4巻

私の好きな作家のひとり塩野七生さん。その最後となる歴史長編が新潮社から4冊の文庫化されましたので、その感想をここに書いておきたいと思います。

塩野七生さんの著書体験は「ローマ人の物語」からでした。それから「ローマ亡き後の地中海世界」を読み~ヴェネツィア共和国を描いた「海の都の物語」、ルネサンス時代=「ルネサンスとは何であったのか」~「マキャヴェッリ語録」~「十字軍物語」、「皇帝フリードリッヒ二世の生涯」へと続き、番外編のように「小説イタリア・ルネサンス」(全4巻)=ヴェネツィアで発生した殺人事件に端を発した歴史ミステリー小説も読みました。

歴史の授業などで「ローマ帝国カエサルクレオパトラ)」「ルネサンス」「十字軍」そして「ギリシア(スパルタ・アテネ)」、「アレクサンドロス大王」というキーワードや名前と時代の流れは覚えていても、誰が何をしたとかの深堀りが無かったので塩野七生さんの著書は「ローマ人の物語」以来、興味深く読んできました。

塩野さんの著書は歴史小説と言っても、ただ歴史的事実に基づく流れの羅列でなく、国の内部状況や外的状をはじめ、人物に対して著者の鋭い分析と想像があり「そうか!」と合点がいくことばかりです。これは司馬遼太郎氏の著作を読むときに教えられることにも通じます。

今回の「ギリシア人の物語」においても同様です。高い文明を誇り、その代表としてパルテノン神殿が思い浮かぶアテネ。ストイックで軍事国家そのもののスパルタ。歴史の授業では「都市国家」や「古代オリンピック」などの記憶にしかなかったのですが、それらの国々にも当然ながら栄枯盛衰があった事を描いています。

アテネにおいても時代を動かした人物が居て、その判断・民衆の判断・政治的判断で繁栄したものが一瞬にして崩壊していってしまう状況-これはライバルであったスパルタやテーベも同様ですがー後世からみればどうしてそうなる前に別な舵取りができなかったのか?とも思います。だからこそ歴史を知る必要があると思います。

第1巻の434ページにおいてペルシアの侵攻を防ぎ、その後ギリシアには約100年!に渡り大きな戦争は発生しなかったと書かれています。

その「安全保障」について考察を書かれておられますが、今の時代と考え合わせると驚くことであります。

現在ではそれに対し、第二次大戦が終結から約80年が経過しますが、既にいくつもの戦争が勃発していますし、我が国を巡る情勢も・・・塩野さんはその「安全保障」が成されていたのは、あの時代を生きていた人たちの「不断の努力」があったとも書かれていますが全く同感です。

そして塩野さんが「最後だからこそ、最も若い男を書きたい」と語っている歴史上の有名人のひとり「アレキサンダー大王」が第4巻に登場します。

20歳で父王フィリッポス2世の暗殺に伴いマケドニア王国の王位を継承、その後ギリシアを統一し、26歳にして当時の超大国ペルシアに戦いを挑み制覇を成し遂げ、32歳にして急死したアレキサンダー大王。と言う位の認識でしかなかったのですが、この著書を読んで彼に対する認識が変わりました。

会戦についても圧倒的な大多数のペルシア軍をいかにアレキサンダー大王率いるマケドニア軍が破ったかを、図と共に書かれているので理解を助けてくれます。

軍の戦闘に常に立ち勝利を得た事。哲学を学びながらもそれ一辺倒にならず、それを活かして国と軍を率いた事。

また、情報収集を重視したことーただ若さと勢いを頼りに大国ペルシアに挑んだわけではなく、その時を活かした行動。その情報の正確性なども含め瞬時に取捨選択をしています。

そしてリーダーに必要な素質といえる「得た勝利を最大限に活用する能力」に大変優れていた人物でありました。だからこそ僅か数年にして現在のトルコからインドまで制覇行が成されたのでしょう。もちろん圧倒的なカリスマとリーダーシップを持った人物であったことは確かで、自身もそれを自負していたと思います。

塩野七生さんの数々の著作に触れ、ハンニバルカエサルアウグストゥスやネロをはじめとするローマの皇帝たち、十字軍と共に語られる獅子心王リチャードとサラディン神聖ローマ皇帝フリードリッヒ2世、そして今回のアレキサンダー大王などなど。教科書や大理石像や肖像画でしか知らなかった=動かなかった対象物に命を吹き込んでいただだき、遠い異国で遥か昔に生きた人間の存在を身近で知ることができたことは感謝でしかありません。

今後は長編は書かれないとのことですが、エッセイや短編での健筆、講演等でのご活躍をお祈りいたします。

PS.申し訳なかったのですが、価格と置き場所の関係もあり著作が文庫化されるのを待って購入しておりましたが、その文庫化も塩野七生さんがきちんと監修されていたので書籍としての価値の高いものでした。