音楽枕草子

クラッシク音楽や読書から趣味などの身辺雑記も含め、感想として綴ったblogです。

完聴記~アーノンクール/ロイヤル・コンセルトヘボウBOX④

今週はアーノンクール/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団による未発表放送録音集の完聴記シリーズVol.4(CD7・8)の投稿となります。

曲目・演奏家・録音データは以下の通りです。

CD7・8

 ・ベートーヴェン:ミサ・ソレムニス ニ長調 Op.123

  ソプラノ:マリウス・ペーターゼン

  アルト:エリーザベト・クールマン

  テノール:ヴェルナー・ギューラ

  バリトン:ジェラルド・フィンリー

  オランダ放送合唱団(合唱指揮:ミヒャエル・グレイザー)

  録音:2012年4月25日

 ・ベートーヴェン交響曲第1番ハ長調 Op.21

 ・ベートーヴェン:アリア「ああ不実なる人よ」 Op.65

  ソプラノ:シャルロット・マルギオーノ

  録音:1998年3月19日

 

ミサ・ソレムニスは同時期の映像もありますので、同一演奏のものと思います。また彼は1990年代にヨーロッパ室内管弦楽団ベートーヴェン交響曲全集などと共に続けて録音されたものや、最晩年の2015年、ウィーン・コンツェントウス・ムジクスとの実質ラスト・レコーディングなど複数録音が残されています。

ヨーロッパ室内管弦楽団との録音は激しさのある演奏でしたが、ここでは彼の晩年になってきかせてくれた静謐な美しさ(ウィーン・コンツェントウス・ムジクスとの録音にも共通する)とこのオーケストラの持っている豊かな響きを活かした演奏になっています。

「キリエ」の中間部では「キリストよ憐れみ給え」がはっきりときこえてきます。全曲を通じていえますが、徹底したリハーサルで歌手にも彼の意図が伝えれられ、それを理解して歌っている事は当然でしょう。

「グローリア」は静の「キリエ」に対比するような印象を受けますが、クラリネットのデリケートな歌い回し、オーケストラとソリストと融合し、とても美しく響くあたりは柔らかさを持っています。

後半にかけての盛り上がりとフーガの壮大さ!ここでアーノンクールさんはやは鋭い響きをきかせます。決して老いて守りに入ってはいないことを示してくれます。

クレド」においても影になってしまうフレーズが拾い出されており、きき手を「あっ!」と思わせる瞬間があります。このように長大な作品であるとダレる部分もある中で、集中力を切らせません。

15分50秒からのフーガの力強い表現から、後半にかけてのソプラノ・ソロによるオペラ的快楽への傾斜~宗教・祈りとギリギリの音楽になっていますが、決して楽な方に流れるなよ!とベートーヴェンの叱咤をアーノンクールさんが代わりに伝えているように感じます。

ベネディクトゥス」に入るヴァイオリン・ソロを主体とした部分は神秘的な場面でありますが、より静謐さがありおだやかで、安らぎさえ感じます。澄んだ水流が湧きあがるその水源のような澄んだ美しさの極み!晩年のアーノンクールさんが晩年に到達したひとつの境地でしょうか?ウィーン・コンツェントウス・ムジクスとの録音でも響きは違っても同じ印象を受けました。

「アニュス・デイ」の痛切な歌い方、悲しみや苦悩で押しつぶされそうになりながらも前への進もうとする感じが伝わってきます。祈りと悲しみの同居。だからこそ平和への祈りが自然に受け入れられます。

軍楽調のリズムもリアルにきこえるので、平和への祈念がより印象的に伝わってきます。200年の時を超えても人間の願いは同じことであると認識します。

とても前衛的な音楽として響いたであろうこの作品を、当時の人に与えたインパクトや高揚を追体験。そしてこの音楽がベートーヴェンの音楽への良き理解者であった、ルドルフ大公へ捧げた友情の印と世界の調和を描いた作品であることを教えてくれます。それも当時に比べれば遥かに贅沢な響きできけることに感謝です。

 

2枚目ディスクには交響曲と演奏会用アリアが収められています。

交響曲第1番―第1楽章 冒頭の和音からハイドンモーツァルトを継ぎ、ベートーヴェン色が示され、交響曲というジャンルが演奏会開始ベルやウォーミングアップ程度の扱いから、新しいステップに入ったことを知らせる力強い響きがきこえてきます。

オーケストラの力量も大きいでしょう、木管のフレーズの扱いひとつをとっても新しい響きがあり、指揮者の意図を積極的に表現しようとしていると思います。

第2楽章 リズムがキモになっていると解ります。そして模倣と対話(フレーズ毎の応答の受け渡し)が印象的です。

第3楽章 メヌエットとは表記されていますが、これはフランス革命を経て貴族の宮廷では無く、民衆の舞踏に近付いており、スケルツォのような逞しさ、力強さ―強弱の明確な対比をきかせて、優雅・優美ではなく躍動感と解放感があります。

第4楽章 前楽章からの前衛的なパワーそのまま突入したような演奏です。

初期ベートーヴェンの明確さを示している見本のような作品でありますが、決して簡単な作品ではない、むしろシンプルな中に楽想と動機がぎっちり詰め込まれた傑作であると改めて実感しました。

・アリア「ああ不実なる人よ」

ベートーヴェン26歳の作品。モーツァルトも書いている当時の名歌手のお披露目用のコンサート・アリア。伝統的なシェーナ(語り・レチタティーヴォ的な所)とアリアから成ります。

知らないできいたらベートーヴェンをあまり感じることの無い音楽で、ハイドンモーツァルト?となりそうです。

CD4でモーツァルトのK.505のコンサート・アリアを歌っているマルギオーノがここでも登場しています。このような作品は彼女のようなプリマドンナ系の歌手が手掛けてこそ生きると思います。

今週はBOXセット完聴記の4回目でした。

お付き合いいただきありがとうございました。