今週の投稿はアーカイブのお付き合いをお願いします。以前投稿していたbloggerに、今の時代と共通する内容を書いていたので、こちらに改めて投稿させていただきます。
今年2014年は第一次世界大戦の開戦から100年経ちます。
そんなことも思いつつ先日、夏休みを利用して全500ページに渡る大著「八月の砲声」(バーバラ・W・タックマン著 山家まりや訳 筑摩書房)を読みました。
第一次世界大戦の勃発直前から開戦後1か月ほどまでの政治・外交・軍事が描かれたノンフィクションです。事実に基づく出来事が綴られていくので、ずっと昔のことでありながらも近年の世界情勢や、その20年後に勃発した、第二次世界大戦にも重ねて考えさせられます。
人類最初の国家を総動員して行われ、戦車、飛行機、潜水艦そして毒ガスといった大量殺戮と民族間の憎悪を植え付けた戦争・・・印象深いのはドイツ皇帝ヴィルヘルムⅡ世が、世界からツマ弾きにされないため、自身の意地と尊厳のためだけに戦争に突入していく姿です。また、ヴィルヘルムⅡ世をそこまで追い詰めていくフランスやイギリス、ロシアの国々は戦争を阻止する努力をせず「やれるものならやってみろ、受けて立つ」という挑発的な態度で臨みます。その複雑で根深い国同士の思惑や、相互不信・誤解・好戦的態度が開戦準備、そして宣戦布告となっていくところは今の現代社会、もっと身近な―この国にも通じてくるところがあります。
この作品は1962年に起こったキューバ危機において、ケネディ大統領に大きな示唆を与え、ソビエト連邦との核戦争を外交で回避できたと言われていますが、ぜひ日本の元首をはじめ、集団的自衛権行使推進、憲法改悪を目指している議員の皆様も読んで、やたら危機感を煽るのではなくて―これはマスコミも連帯責任になりますが、亡国への道がどんな始まりから起きるのか、よ~く考えてほしいと思います。
日本の政治(家)には外交が無い。と感じます。常に世界に外交ルートと対話を持ち、諸外国へ堂々と対峙してほしいと強く望みます。
そんな時代においても文化・芸術活動は活発に行われていました―大戦の前年に、ストラヴィンスキーのバレエ「春の祭典」のセンセーショナルなパリ初演―1911年にはシェーンベルクが「月に憑かれたピエロ」で、無調と歌と語りのミックスみたいな「シュプレッヒシュティンメ」を使用した作品を発表し、20世紀に入ってついに「クラシック音楽」という概念を根底から変えてしまったという出来事がありました。
戦争当事国のひとつ、フランスのドビュッシーやラヴェルなども、大戦や音楽界の変化と無縁ではいられませんでした。とくにラヴェルは輸送部隊のトラック運転手として実戦に従軍しています。
ラヴェルが大戦勃発を知り、徴兵されるまでの1か月程の間に書かれた、ピアノ三重奏曲は、彼自身「5週間で5か月分の仕事をした」と手紙に書き残しているくらい。もし戦死するようなことがあれば、この三重奏曲が遺作となることを意識して作曲されたことが伝わってくる作品です。
第1楽章モデレ(モデラート)
ピアノにより親しみ易いテーマによって始められますが、その透明感溢れるメロディーが激しさを加えたり、ファンタジックになったりと展開をきかせてくれます。後半のゆらゆらとした、浮遊感は夢の中にいるような感覚になります。
第2楽章パントゥーム
一種、スケルツォ的なリズムを持ったもので、ラヴェル流の気取ったような、チョット冷たい感じのするというか、格調高いものです。うなされるようにして音楽が盛り上がっていくところがイイです。
第3楽章パッサカイユ(パッサカリア)
冒頭はきき取れないくらいのピアノの超低音でテーマが提示され、そこへチェロがゆっくりと民謡を歌うようにローローと入ってきます。ヴァイオリンも加わり複雑なハーモニーとなって少し古風な音楽と、回想するようなイメージを抱かせて、今度は高音へと昇っていきます。この低音→高音へのダイナミックな変化にインパクトがあります。その後は大空を見上げながら、風に吹かれている気分になり、メロディーに浸れます。
第4楽章アニメ(アニマート)
3つの楽器が華麗に躍動してクライマックスへと向かっていきます。でも、低音でゴソゴソ動くモチーフ途中で出てくるのですが、ラヴェル自身の不安を表しているのでは?と邪推してしまいます。
しかし、全体は情熱的でしだいに高揚感が増していきます。その充実した響きにはラヴェルの強いポジティブな姿勢と、決意みたいなものが感じられて、きいている自分も胸がいっぱいになって「音楽をきいた」という充実した気持ちになれます。
私がきいている所有しているディスクはジャック・ルヴィエのピアノ、ジャン=ジャック・カントロフのヴィオリン、そしてチェロがフィリップ・ミュレのフランス勢によるもので、洗練されたアンサンブルとメロディーの歌わせ方がラヴェルとよくマッチしていると思います。