音楽枕草子

クラッシク音楽や読書から趣味などの身辺雑記も含め、感想として綴ったblogです。

いつまでもショパン 中山七里著~ショパン国際ピアノコンクールの2025年に

現在第19回ショパン国際ピアノコンクールが開催されています。私はショパンコンクールを含めコンテストのように演奏家に順位をつけることに懐疑の目で見ています。また音楽界の裏事情とか政治なども絡み合い順位決定されているような…上記入賞者が必ず大成はしない・・・以前読んだ中川祐介さんの著作でも書かれていましたが―

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中山七里さんの音楽家題名ミステリー・シリーズ?の「いつまでもショパン」(2014年宝島社文庫刊)を読みました。岬洋介シリーズ(このシリーズの主人公的人物でピアニストでありながらも鋭い洞察から様々事件を解決していきます。以前読んだデビュー作の「さよならドビュッシー」や「おやすみラフマニノフに続く第3作です。ただし時系列のストーリーではないのでこの作品だけで独立した作品になっています。

今回の舞台はまさにショパン国際ピアノコンクールの開催期間中のポーランドになります。世界的なイベントを背景にしたミステリー小説といえるでしょう。

そういった作品なのでタネ明かしに注意して作品をご紹介したいと思います。

冒頭いきなり題名からは想像できない、スパイ小説かトム・クランシーの小説か!と思うような事件?事故?がプロローグとして登場しまが、これが発端となって物語に忍び寄ってくるテーマになります。

岬洋介はショパンコンクールに出場するため、ポーランドの首都ワルシャワを訪れます。しかし、岬洋介はなかなか登場してきません。出場者のひとりとして名前はでてきますが、本作では副主人公ともいうべき地元ポーランド出身で18歳のピアニスト、ヤン・シュテファンスが登場します。作品は彼を通じて進んでいきます。

地元出身で優勝候補という周辺からの圧力、「ポーランド人の弾くショパン」に絶対の自信。自負を持ってコンクールに臨みますが・・・コンクールの会場で衝撃的な殺人事件が発生します。被害者は警察官で胸を拳銃で撃たれているだけでなく、指をすべて切断され残虐な手口で殺害されていました。

犯人は「ピアニスト」と名乗ることまではわかりますが、その姿を所々で描写して読者に謎解きのヒントと犯人の影を与える手法が映像的で面白いです。

その犯人は会場周辺ではテロ事件が多発させて、コンクール自体を危機にさらします。ヤン自身もテロ事件の爆発現場に巻き込まれ徐々にコンクールに対する意識のみならず音楽への向かい方、彼を取り巻く教師、親、出場者たちとの関わり合い方にも変化が生じてきます。

音楽への純真な情熱だけではなく、厳しいコンクール内部の競争も書かれています。また、この著者はシリーズを通じて音楽が演奏されている時の楽曲描写が素晴らしく―音楽を文章で書くという難しいのですが―音のニュアンスや響きが鮮やかに文中に描かれています。

一方で殺人現場やテロ爆発現場の凄惨な描写はその対象のように、そしてそれらを憎む著者の気持ちも入っていると思います。でも以外に著者は軍事マニアでは?と思われるくらいに飛行機、兵器、銃器の選択と描き方がリアルなのです。

コンクールの優勝者は誰か?テロ犯人は誰か?そして岬洋介の隠された秘密とは?ミステリーと社会派的な面が絡み合ってストーリーが進むところは読者を飽きさせずに次のページへの駆り立てます。

しかし、音楽がテロ攻撃を停止させるところやコンクールの結果や真犯人が分り解決への向かうところなどはあまりにも出来すぎ、トートツでなので早急な幕切れに感じました。私自身が素直ではないせいかもう少し不条理・邪悪な面もあっても良かったのでは?中山さんの著作は本の世界だけでもせめて平安で救いのある理想的な世界を描こうとしていると思わせるのが特徴でもありますが。

読後は若い時を思い出して拙い指でショパンを弾いてみたくなりました(実際にはショパンを弾くのではなく、「ショパンらしき」ものを弾く程度にしかなりませんが)