音楽枕草子

クラッシク音楽や読書から趣味などの身辺雑記も含め、感想として綴ったblogです。

夜オルガンVol.13 原田靖子

今季で松本市音楽文化ホール専属オルガニストを退任される、原田靖子さんのコンサート「夜オルガンVol.13 同時代の音~邦人作品から~」(於:2023年3月10日)に行ってきました。

 

     

前任の保田紀子さんの退任演奏会、そして原田靖子さんのお披露目演奏会に行ったのが2014年、それ以降ご無沙汰になってしまい、コンサート通いも3年ぶりとなるので、リハビリ?も兼ねてとなりました。

(平日金曜日の19時開演に間に合わせる為、何とか仕事をやり繰り―忙しかった・・・)

約1時間ほどのコンサートで、演奏と共に原田さんのレクチャーの占める割合も多く、一期一会となりそうな作品をきくのには大変ありがたく、有意義なことです。

原田さんの演奏会初めのレクチャーを抜粋すると、日本に「パイプオルガン」文化が始まったのが、1970年代。各地に建設される音楽ホールにパイプオルガンが設置され、開館記念等の委嘱作や、演奏する場所もできたことにより、作曲家も作品を手掛けはじめました。それが成熟してきたのが1980年で、作品数も多くなったそうです。これはパイプオルガン設置のコンサートホールが地方にも建設された時代ですね(この松本市音楽文化ホールも1985年頃の完成だったと思います)*箱モノ行政の賜物!?

オルガン音楽=J.S.バッハの認識なので、作品について色々と述べるほどの知識は無く、初めて接する曲ばかりなので、以下演奏された5曲に対する短評を、当日のメモで振り返りながら、書いておきます。 ※あくまで個人の感想です

 

      

      


・柿沼 唯  「蓮花」

 能楽ガムラン音楽を作品に取り入れたり、オルガン作品のみで個展をひらくなど、オルガン音楽では知られた方の様です。

 作品は仏教=東洋の宗教感と童謡「ひらいたひらいた」をテーマに持っているそうです。確かにぽつぽつと、花が咲くみたいに展開をしていくところがあります。

 途中でバッハのコラールを連想する、メロディーがきこえてきました。

 

・近藤 岳  「ジャメ・ヴュ ―ある恋の主題について」

 パイプオルガン(奏者:小林敦子さん)とポジティブ・オルガン(原田さん)による二重奏の作品です。

 2台のオルガンの響きの立体感を、興味深くききました。いくぶん古風なメロディーきかれますが、後半にかけての音というか、オルガンという空気を送り出して音を出す機能を、最大限に発揮するように、高音が響くところは超音楽的というか、私の耳には辛かった。まるで健康診断の聴力検査を、延々と続けられているようなー

 

・伊佐治 直  「橋を架ける者」

 複数の曲集を繋ぐ=橋として作曲された「間奏曲」みたいな作品だそうです。

 作曲者の承諾を得ての、ポジティブ・オルガン独奏による演奏でした。

 まず、ハーモニーが美しい!架けられていく橋が虹のようで、希望や「ポジティブ」な気持ちになる音楽です。構成もきっちりしていて、崩落の恐れの無い橋が架かります。また、宗教的な響きも美しく、調和がとれている作品です。

 

・松岡 あさひ  パルティータ「しんじんのうた」

 築地本願寺設置されている(知らなかった)の委嘱作で、曲は5つの部分からなっており(プログラム写真を参照下さい)作曲者の初のオルガン作品だそうです。

 キリスト教(洋)の象徴物と言える「パイプオルガン」と仏教(和)の代表のひとつ「本願寺」の混合させようと、親鸞の教えにもとづく「宗教賛歌」を変奏曲となっているですがー邦人作曲家にある「和」と「洋」をミックスした、そこはかとなく感じる違和感があります。

 こちらは「ネガティブ」な意味での「和洋折衷」であると感じました。

 5曲共にまるで休止ごとに変わる、ブルックナーの亜流、いや、ポプリみたいな変転で、全体の統一感や構成にもきいていて首を傾げてしまいました。

 

・坂本 日菜  相馬流山・会津磐梯山によるラプソディ《~未来へ!》

 こちらは東日本大震災の復興を願うコンサートの委嘱作ーこれを3月11日の前日のコンサートのプログラム最後に持ってきた、原田さんの思いが感じられます。

 こちらは小林敦子さんとオルガン連弾です。小林さんは曲中で鳴らされる「鈴」(浦安の舞とかで使用する、小さい鈴が沢山ついたアノ鈴です)も担当されていました。

 冒頭、足鍵盤だけで弾かれる、東北らしい民謡のテーマが低く響きます(震災の辛さ、寒さの辛さ、東北の苦しみがきこえます)それらの民謡が折り重なり、次第に力を帯びていきます。

 東北民謡とオルガンの響きの共鳴に「んだ」「んだ」と言っている東北のおじいさん、おばあさんが、目一杯おめかしして歌っているような姿が浮かんできます。

 最後、コーダの響きは(個人的にはオルガンの延々と続く音の伸ばしが嫌いなのですが―脳の襞が引き伸ばされて、洗脳されるようで・・・)祈り・鎮魂・希望がきこえてきます。そこにはオルガンを弾く原田さんの背中を見て、様々な思いを鍵盤に込めていることを感じられる姿でした。

原田靖子さん、地方都市の音楽啓蒙ありがとうございました。さらなるご活躍をお祈りします。

PS.たぶん、曲目からしても、いくら原田さんの退任演奏会とはいえ、大した人数は来ないんじゃないの?と勝手な想像をしていたら、結構な入場者(約600席の収容人数に500人近く居たのでは?)全員が音楽好きなのかな?と考えてしまいました。

後は年齢層。私も決して若いわけではないですが、聴衆の約半分は50歳台から後期高齢者なのではないでしょうか?まだまだ、松本市周辺に若い人たちの音楽文化は根付きませんね。。。