音楽枕草子

クラシック音楽や読書関係の感想記として投稿しているblogです。Xでは身辺雑記のポスト、blog投稿の追加情報のリポストなどしています。

演奏会~インバル指揮・都響 マーラー交響曲第8番【インバル90歳】都響スペシャル

今週は【インバル90歳記念】都響スペシャル(2026年2月16日月曜日)の演奏会感想記投稿となります。Xにもポストしましたが平日夜ということもあり長野県松本市から移動~演奏会~移動の強行軍でした。

本当に90歳(卒寿)を迎えた指揮者だろうか!!高齢指揮者が加齢と共にテンポが遅くなり「悠然」などと言う表現をされますが、インバル氏やもう一人の長老指揮者!?の代表格ヘルベルト・ブロムシュテット翁もテンポ低下やフレーズの弛緩が感じられません。むしろテンポアップして躍動感がでているのでは?と感じる表現もあることに驚きです。

大人数の演奏家―オーケストラ、コーラス(児童合唱を含む)そこにソリストが8名!(ソプラノ3名、メゾ・ソプラノ2名、テノール、バリトン、バス)が必要とされ「一千人の交響曲」という名前で呼ばれ、その壮麗・華麗で祝典的な音楽でもあるので初演時から大成功したと伝えられるこの交響曲。

確かに大音量がメインとなり、まるで交響曲の終楽章を延々80分(今回の演奏会では約85分くらいだったでしょうか)続くような音楽です。

しかし、実演をきいて思ったのはその音の大洪水よりもピアノ、ピアニッシモの表現と音響バランスが非常に考えられた作品であると思いました。

第1部141小節から合唱が「Infirma nostri corporis(我らの弱き肉体に)」と歌いだすところ―曲冒頭から「Veni~」とffを中心に激しかった音楽が落ち着き展開部にあたる場面において合唱の静かな歌い方―これは決して身体壮健でなかったマーラーの心情告白のようにも感じる個所を意味深くきかせてくれます。

第2部は1276小節~マリア崇拝の博士(テノール:マグヌス・ヴィギリウスさん)が「Blicket auf(仰ぎ見よ)」と上昇音型に導かれて歌うところのデリケートにして感極まった表現が素晴らしかったです。これは上昇音型+仰ぎ見よ=「昇天」を表現している場面になるので第2部の題材となっているゲーテの「ファウスト」終末の重要なテーマでもあります。それまでは荒涼とした崖のある地上を行きつ戻りつつ浮遊・漂泊していた(音楽も同様に上下降を繰り返していた)ものが神秘の合唱を経てコーダ(昇天)を迎えるポイントになります。こういった大切な個所を外さず示してくれるインバル氏が評価される理由が分かります。

そして私が感極まったところは(沢山ありすぎますが)ふたつを―

①133小節から悔悟する女=グレートヒェン(ソプラノⅡ:エレノア・ライオンズさん)の歌に合わせて第1部の主要テーマが金管楽器によって吹奏されるところです。第1部「聖」と第2部「俗」が融合する一筋の光が差してくる瞬間!そこに栄光の聖母(ソプラノⅢ)が「Komm!(来なさい!)」と呼びかけた時の「俗」が「聖」が融合していく澄んだ空気感!当日は栄光の聖母(隠岐彩夏さん)は2階席からの歌唱。

②1450小節~交響曲、それも大編成作品にも関わらず突如アカペラのコラール風に弦楽器と木管楽器に支えらてコーラスが歌う(すべてのうつろいやすく儚いものは 比喩にしかすぎぬもの)の張りつめた最弱音が会場に響き消えていくところは演奏者たちのレベルの高さを改めて感じる瞬間でした。

冒頭にも書いた通り齢90歳の誕生日を迎えたインバル氏の指揮も確かなもので、全曲を立ったままで指揮!しており(この公演は3日間連続の2日目)その指揮姿は足を踏み鳴らす、掛け声が出るアクションは少なくなり若干静への変化はありますが、それでもあの動きはスゴイ!欲しい音、粘りが欲しいときは足を踏ん張り両腕をグッグッグッと地面を突き刺すようにして振っているところの力強さ!また第1部と第2部で2階席のバンダへの指示のため振り返る姿の堂に入った姿はホール全体を支配しているようでした。

実演初体験ということもあり大きな発見とスコアできいていただけでは聴取できなかった箇所の確認ができました―総勢500人弱くらいだったと思いますが(それでも大人数なのでコントラバス奏者の後ろの台に乗っている方は怖いくらいの高さと舞台ギリギリで弾いていました)打楽器を左右に振り分けて立体的な響きの演出。これはオーケストラ全体にいえることでサントリーホールの響きを活かして各楽器が際立つところが多く、マーラーがスコアに詰め込んだサウンド体験ができました(編成にはピアノ、マンドリンが入っていますがはっきりきこえてきました)

あと、コーダでは全弦楽器がユニゾンでゴリゴリと弾けば音量も出るのにピッツィカートやリズムを刻むだけ、チェロやコントラバスは管楽器奏者が疲れているところ(恐らく)一生懸命に吹いているのを横目に11小節の休みがあります。終止の17小節くらい前で弾き始めます。そして弦楽器は3小節の休止があっての最後のffの和音を弾いて全曲が終了―でも音だけできいていると全楽器で圧倒的で輝かしくオーケストラが鳴り渡っているようにきこえる不思議な体験でした。

ソリストが歌う時にヴァイオリンはプルトを減らして弾いて歌唱を際立たせ室内楽的にするところもありました。

大オーケストラと大合唱団の波状攻撃のシンフォニーのみではない―もちろん第1部や第2部のコーダでは大音響に圧倒されますが―サウンド・バランスが良く考えられたマーラー晩年の傑作であることを再認識するとともに第1部と第2部が全く方向性の異なる音楽を1曲に括り付けた強引な作品と思っていましたが、この演奏会に備え予習と実演をきいたことでマーラーがこの交響曲に込めた意味を若干なりとも理解できたように思います。

東京都交響楽団のマーラー演奏の伝統と歴史が培った非常にハイレベルな演奏会でした。ソリストも高水準(昨年のサイトウ・キネンの「復活」できいて以来の藤村実穂子さんも期待通りの安定感)、ピアノ、ピアニッシモの弱くて難しい個所がとても澄んだ響きで満点!児童合唱も落ち着いた歌唱で経験値が高い!

終演後は誕生日を祝して演者全員によるゴージャスなアレンジの「Happy Birthday」が演奏されました(サプライズ演出だったと思います)。その時のインバル氏の姿を観て第3次マーラー・チクルスも無事完結に希望を持ちました。次回は100歳Anniversaryのイベントがどのようになるか楽しみです!!


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