音楽枕草子

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ギュンター・ピヒラーさん追悼~アルバン・ベルク弦楽四重奏団との録音から

ギュンター・ピヒラーさんが4月24日、85歳で亡くなりました。死因は自動車事故死と報道されています。

ピヒラーさんといえばアルバン・ベルク・カルテットの第1ヴァイオリン奏者としてその結成から解散までの38年間在籍した「顔」という方でした。後年は指揮者としても活動されオーケストラ・アンサンブル金沢への客演もあったのでその指揮姿に接した方もいらっしゃるでしょう。

18歳にしてウィーン交響楽団、21歳でウィーン・フィルのコンサート・マスターを務めたことからも相当な才能を持った方でありました。

今週はピヒラーさんを偲んでアルバン・ベルク・カルテットの録音のなかでも業績のひとつとして称えられるベートーヴェン(旧録音)とシューベルトをご案内したいと思います。

アルバン・ベルク・カルテットは、1970年にウィーン音楽院の教授4人によって結成されました。

初期メンバー:ギュンター・ピヒラー(第1ヴァイオリン)を中心に、クラウス・マエツル(第2ヴァイオリン)、ハット・バイエルレ(ヴィオラ)、ヴァレンティン・エルベン(チェロ)

※途中メンバー交代あり。第2ヴァイオリン:ゲルハルト・シュルツ(1978-2008)、ヴィオラ:トーマス・カクシュカ(1981-2005)→イザベル・カリシウス(2005-2008)カクシュカの休止により加入

名前はいうまでもなくオーストリアの作曲家アルバン・ベルクから命名(未亡人ヘレーネから許可を得て)

1971年にウィーン・コンツェルトハウスでデビュー。結成当初からウィーンの伝統と同時代の音楽を両立させる姿勢を貫き、カルテットの名前のとおり20世紀の作品もレパートリーとしていました。

特徴は完璧なアンサンブルと豊かで洗練された響きでしょう。技術的な精度が高度でありながら決して冷たくならない豊かな歌心が魅力です。これは彼らが「ウィーン」&「伝統」のネーム・ヴァリューに固執せず結成初期にアメリカ留学をしてラサール・カルテット(1946年結成、新ウィーン楽派や現代音楽の演奏で特に評価を得ていた)の門下となったことも大きく影響しているでしょう。

第1ヴァイオリンが全体を主導する伝統的なカルテットの形態を踏襲しながらも、4人の音が溶け合うように統一されながら音楽が完成されていく演奏は今世紀のカルテット像の完成形といえるのではないでしょうか。またカルテットといえばオジサン4人のイメージ(アマデウス、ジュリアード、ボロディン、スメタナ、ブダペスト・・・)の最後の典型といえるのではないでしょうか?その反動!?として登場したエマーソン、ハーゲンといった俊英が登場してくるキッカケにもなっていると思います。

○ベートーヴェン弦楽四重奏曲

1978年~83年に中期の「ラズモフスキー」から録音をスタートさせた全集となります。1989年にライヴ録音された全集は一部の曲しかきいたことがありませんので比較試聴はできません。

初期作品では抒情性や柔軟性、速い楽章では高揚感があります。中期の「ラズモフスキー」の3曲はダイナミックなコントラストを鮮やかに描きながら旋律の美しさ、豊かさが光ります。そして後期作品では、第12番~第16番の緩徐楽章では心に沁みる旋律を深々とー「大フーガ」(当初第13番の終楽章として書かれた)では重層な構築力を透明な響きできかせてくれます。

○シューベルトの弦楽四重奏曲

傑作の第14番「死と乙女」(録音:1997年)と第15番「ロザムンデ」(録音:1994年)がシューベルトの持つ「歌」と「死」についてこれほどつきつめて演奏している例はあまり聞かれないと思います。

シューベルトの特徴である旋律美と急に訪れる暗い影(闇)の対比がききどころのひとつです。「死と乙女」の第2楽章アンダンテ・コン・モートの各変奏に深い哀愁を込めているのですが、感傷的な方向に流されない節度。「ロザムンデ」も透明感ある響きが作品全体に広がっていきます。

第10番(録音:1997年)もハイドン、モーツァルトからの古典的な佇まいを引き継いだ秀作であると認識させてくれます。

またこれらのシューベルト録音は全てライヴ。初めてきいた時はスタジオ収録と勘違いするくらい実演でもスタジオ収録と精度・熱量に差異のない演奏に驚きました。

このようにバリバリと勢いで弾く、悲痛な感情表現を多用しない古典的美意識に確立された演奏がこの2人の作曲のみならずバルトーク、ブラームス、ハイドンやモーツァルトなど多くにおいてまず指折られる録音としてアルバン・ベルクがあることを改めて納得しました。

今週はギュンター・ピヒラーさんの追悼として音楽活動の中心となったアルバン・ベルク・カルテットとの代表する録音についてご案内しました。

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