先月のシャーロック・ホームズ対伊藤博文の続編となる「続 シャーロック・ホームズ対伊藤博文」のレビュー投稿となります。

引退したホームズ―ある事件の解決について疑問を記者から示されて推理能力が衰えたと感じた彼はサセックスで養蜂に勤しんでいました(このあたりは正典の事件とコカインに対する世相を反映しており万能人ホームズというよりも悩める人間ホームズとして深みのある表現が素晴らしいです)
その地に妻や子供を連れたワトスンが訪れます。微妙な距離感のホームズとワトスン夫人や子供たち―そこにある人物の訃報を伝える電報が届きます。
伊藤博文の死を伝えるものでした―史実では1909年10月26日に韓国のハルビン駅で朝鮮独立運動家の安重根に射殺されました―しかし、この暗殺については諸説あり、安重根の発射した拳銃弾と異なる弾丸が伊藤博文の体内から摘出された、射出口の角度が現場の状況と合わないなど・・・暗殺犯は別にいるという謀殺説もあります。またそれがこの物語を進めていくひとつの重要なキーワードともなっていきます―「伊藤博文の真犯人は別にいる」というメッセージをホームズは受け取ります。
伊藤博文「惜別の会」への招待を受けたホームズはワトスンを伴い再び日本に赴きます。
この物語ではホームズとワトスンのふたりが登場するので正典のスタイルを踏襲しておりますので松岡主祐さんがどのように2人のストーリーを描いていくか興味深く読むことができました。
先の作品ではホームズと兄マイクロフトとの兄弟、この作品ではワトスンの家族の織り込みは作家ならではの視点と思いました。
日本に着くと元帥・山県有朋や首相・桂太郎、外相・小村寿太郎など歴史上の人物が登場します。しかしここで謎を呼ぶことが―「惜別の会」の招待を受けて来日したにもかかわらずその正体名簿にホームズの名もワトスンの名前もありません。なぜ偽の招待状が送られてきたのか?そこには英国と同様に「惜別の会」への参加をするロシア、ドイツの影が認められます。
伊藤博文の暗殺、日韓併合、日露戦争など史実とフィクションが組み合わされてストーリーが巧みに展開していくのは前作同様、真相を追う読者は引き込まれていくと思います。謎解きだけではなく後半にはアクションもあるのでアニメ映画にしたら面白いのでは?
ラストは正典の「最後の事件」へと見事に収斂させてしまう展開にパスティーシュ小説の醍醐味があります。
ここでも「這う人」「獅子のたてがみ」「瀕死の探偵」「悪魔の足」などなど正典からの引用があるので「あの作品からだ!」と思う人物や場面があちこちにでてくるのもパスティーシュ小説を読む楽しみを読者に与えてくれる筆者のサービス精神とホームズ・マニアぶりが窺われます。
松岡圭祐さんの著作は以前から読みたかった「黄砂の籠城 上・下」(講談社文庫)も入手できたのでいつか投稿をしたいと思います。
