音楽枕草子

クラッシク音楽や読書から趣味などの身辺雑記も含め、感想として綴ったblogです。

スメタナ生誕200年~連作交響詩「わが祖国」①国際音楽祭プラハの春

今週はアーノンクールロイヤル・コンセルトヘボウのディスク完聴記はお休みして、今年生誕200年を迎えるチェコの作曲家ベドジヒ・スメタナ(名前の日本語表記はベドジフ、ベルドジーハなどもあり)の「わが祖国」の投稿にお付き合いいただければ幸いです。

彼の命日(明日の5月12日です)を記念して開催される「国際音楽祭プラハの春」もアニバーサリー・イヤーと重なります。例年、音楽祭のオープニング・コンサートで演奏されるのが連作交響詩「わが祖国」です(今年は誰が振るのでしょうか?)

もっぱら第2曲にあたる「モルダウ(ヴァルタヴァ)」ばっかり知られている作品ですが、全6曲の交響詩から成る連作交響詩となります。

作曲は1874年から順に進められ、1879年に全曲が完成します。この時スメタナ自身は1874年には聴覚の障害もあったことからプラハ歌劇場の職を辞し、それから程なく完全に聴覚を失い、精神的にもダメージを受けるなど心身ともに苦しい時期に作曲をしていたという背景も知っておく必要があると思います。

チェコの「歴史」「伝説」「自然」「過去」「現在」「未来」が描かれており、全6曲を続けてきいてこそ作品の持つ意味や魅力を理解できると思います。

交響詩「高い城(ヴィシェフラド)」

ヴァルタヴァ湖畔に建つ城(要塞)を眺めながら吟遊詩人が過去の栄光や没落の歴史が語られます。

冒頭のハープによるテーマはその吟遊詩人の奏でるハープを模しています。そして「昔々・・」と語りが始まります。そのテーマは過去の栄光を振り返るようにして他の交響詩にも繰り返し登場します。

交響詩モルダウ(ヴァルタヴァ)」

チェコ民族の母なる川ともいえるヴァルタヴァ(ドイツ語でモルダウ)は2つの源流「温かい」ヴァルタヴァと「冷たい」ヴァルタヴァが―前者をフルートが、後者をクラリネットで奏されます。その小さなふたつの源流が合流して小川となり、川辺の風景を描きながら下流へと進みます。

最後に大河となった先には「ヴィシェフラド」がそびえ建っていることも描きここでもチェコの歴史を印象付けます。

交響詩「シャールカ」

古代の神話に基づく女部族長のお話。恋人に裏切られたことに我慢ができず、女性のみの部族を率いるシャールカ。その復讐のために自らを囮としてボヘミアの騎士団に復讐をするというストーリーを描いています。

誘惑~酒宴(饗宴)~寝込みを不意打ちしての殺戮といった場面に言葉が必要ないくらいの表現です。

交響詩ボヘミアの森と草原より」

全曲で唯一、歴史や伝説などのストーリーを持たず自然描写と人々の生活などの現在を描いた交響詩

民族舞曲「ドゥムカ」や「ポルカ」など楽しいだけでなくて物憂げな悲しみの歌もきこえてきます。しかし、全体としては自然賛歌がメインとなり、隠しテーマのようにして「ヴィシェフラド」のモチーフが顔を出します。

交響詩「ターボル」

ここから歴史的な興味が無いとピンとこない交響詩かもしれません。民族における悲しい過去の闘争の歴史を描いているからです。私も細かい歴史背景が分らないのでCDや解説本に基づく記載になります。

「ターボル」とはボヘミア南部にある町の名前で、ここを本拠地としたプロテスタントキリスト教における当時の教会改革派)のフス教徒(ターボル派)と国王軍=教皇軍との対立を描いています。

重苦しい「フス派のコラール」に始まり、戦闘により勝利を勝ち取った民族の喜びを熱烈に表現しています。

交響詩「ブラニーク」

前作と対になるような作品で、ほぼアタッカで続けて演奏されることが多いです。

「ブラニーク」とは山の名前で、そこには民族の守護神といわれる王様ヴァーツラフ1世とその家臣たちが眠っており、祖国の危機に際して駆けつけるといわれている。

民族は危機にあり(これは先の「フス派のコラール」や賛美歌をモチーフにしたメロディーで暗示されている)眠りから覚めたフス教徒の兵士たちは山から姿を現し勝利を収める過程までが描かれています。

フス教徒の讃美歌が栄光を讃えるように歌われ、そしてここで「ヴィシェフラド」の動機が誇り高く響き渡り民族の過去から現在、そして未来を見据えるようにして全曲を閉じます。

初演は1882年11月、聴衆からは熱狂的な支持を受けますが、その頃には心身ともに病気が進行しており1884年に亡くなります。実質的に「わが祖国」が晩年最後に完成させた作品となり、その代表作ともなりました。

以上、全曲で約75分の演奏時間です(実演では交響詩「シャールカ」で休憩になることが多いです)

スメタナドヴォルザークもそうですが)といえば「国民楽派」などと言う呼称で、当時は音楽の中心であったドイツ=オーストリアの音楽から距離を置こうとしていたみたいな感じで教えられましたが、そうではないことこの作品をきくと思います。

スメタナはオペラでの成功を常に求めており(現在では「売られた花嫁」の序曲や抜粋でしか耳にできないですが)ワーグナーも研究していたそうです。そう考えると「ヴェシェフラド」の動機の使用はそのまま「ライトモチーフ」に通じ、「城」「河(川)」「伝説(神話)」といったキーワードにも両者の共通性があるように思います。

他にも「シャールカ」では誘惑されたボヘミアの騎士たちが酔っぱらって眠りに落ちるところは楽劇「ニーベルングの指輪」の「眠りの動機」に似ているように思います。

そうやってきいているとワーグナーに心酔していたブルックナーともつながりを見出します。まさに最初に登場する「ヴェシェフラド」動機を曲中に散りばめ、最後に華々しく響き渡ります。

重厚なオーケストラサウンド。特に「ブラニーク」の後半におけるクライマックス構築。そして「ターボル」後半のリズムは交響曲スケルツォ楽章を連想します。

クラシック音楽をきき始めて間もない中学生の時、ドヴォルザークの伝記を読んで「新世界」をきき、その次にスメタナの伝記を読み「わが祖国」をきいたことから長いお付き合いになる作品なので思い出もあります。

そんな思い出を含めておすすめのディスク紹介は明日のスメタナ命日、プラハの春音楽祭開催日に投稿したいと思います。