音楽枕草子

クラッシク音楽や読書から趣味などの身辺雑記も含め、感想として綴ったblogです。

完聴記~モーツァルト交響曲全集(その4)~クリストファー・ホグウッド

今週も完聴記モーツァルトのシンフォニー。その第4回。

先週でほぼ初期のシンフォニーをきき終わる目安がついたので、今回と次回で残ったシンフォニーと真偽不明な曲をきいていきたいと思います。

CD17 

(この全集のCD17とCD18には真偽不明の作品が収められています)

交響曲 イ短調 K.16a /K.Anh.220「オーデンセ」

1982年にオーデンセ(アンデルセンの生地で有名)で写譜が新発見され、1765年にロンドン、もしくは1766年~1769年頃、ザルツブルクかウィーンで作曲された初期の交響曲と研究家たちは推論しました。しかし、研究が進み偽作説が強まり、その後はほとんど録音・演奏される事の無くなったので、いまではこのディスクでしかきけない作品かも知れません。

モーツァルトとしては珍しいイ短調交響曲で、当時流行していたシュトゥルム・ウント・ドラングの作風で書いたと言われれば聞こえはいいかもしれませんが、いざきいてみると―恐らく偽作―久しぶりにききましたがやっぱりそう感じました。第1楽章のメロディーの動きや終始部なんかも単純すぎます。ただ第2楽章の弦と管が語り合うようなところは唯一この曲で耳をひきます。終楽章も多弁になりすぎ、技が鼻にツイてもう少しスマートになって欲しく感じ、また、ホルンがいななくのもいただけないです。

交響曲 ト長調 K.45a /Anh.221 「旧ランバッハ」

この曲も真偽が一転二転した曰くありの交響曲です。

1923年にザルツブルク近くのランバッハという街の修道院からふたつのパート譜の写譜が発見されました。片方にはヴォルフガング・モーツァルト作、もう片方にはレオポルド・モーツァルト作となっていて、このシンフォニーにはケッヘル45aという番号を与えられました。しかし、ドイツの音楽学者アンナ・アーベルトが実はこの曲はレオポルドの作で、もうひとつの方がヴォルフガング作であると発表しました。そこで、その交響曲を「新・ランバッハ・シンフォニー」として名付けられました。

話がゴチャゴチャしてきましたが、要はアーベルトという女性学者は「旧ランバッハ」がレオポルド作で「新ランバッハ」がヴォルフガング作であるという説を出しました。

しかし、ここで状況は一変しました。1980年代に「旧ランバッハ」のオリジナルのパート譜が発見されて晴れて「旧ランバッハ」がヴォルガングの作品であるとされ「新ランバッハ」はレオポルドの作品として落ち着きました。

音だけでなく、直接楽譜を分析して作曲された時代背景など調べている学者でも間違えることがあるのですから音楽の真贋を見極めることは本当に難しいことだと思います。

話が長くなりすぎました。曲についての感想―

第1楽章は堂々としていてオーボエやホルンなどの管楽器に多少の独自性を与えていて同時代の作品に比べると少し異色な感じがします。音楽の運び方も大人びているというかとても保守的な印象です。

第2楽章では休みなくホルンが活躍して牧歌的な空気に包まれます。ただ、同じリズムの繰り返しには単調さが・・・全曲に渡ってホルンの出番が多いと思いました。

★★

交響曲 ヘ長調 K.76(K.42a)

真正な資料が残されていないため偽作ともされる交響曲

第1楽章は弱音主体で構成されていて、インパクトが薄いものです。でも、管楽器がフルート、ファゴット、ホルンと充実していて、それぞれに独立したフレーズがあったりするところがこの時期の作品―1767年頃の作と推定され、それが本当だとすると、まだモーツァルトは5,6曲しか交響曲を書いていない時期です―と考えると少し他の作品と比べると違いがあります。

第2楽章は弦のピチカートに対してファゴットとホルンが目立つ動きをします。

第3楽章にはメヌエットが置かれていますが、音がダンゴになったきこえてきてメリハリが少なくて技法が拙い気がします。

ガヴォットという珍しい形式による終楽章。全楽器が一丸となって充実した響きはきこえてきますが、もうひとひねり欲しいと感じてしまいます。

★☆

交響曲 第6番 ヘ長調 K.43

1767年にウィーン~オルミュッツで書かれたとされ、それを反映して第3楽章にメヌエットを置いています。

第1楽章音楽が流麗で濁りや停滞感が無いのが耳になじみ易いです。

第2楽章のとても美しいメロディーはオペラ「アポロとヒアキントゥス」から転用されたとのことです。弱音器を付けたファースト・ヴァイオリン、そして2声部に分かれたヴィオラオーボエから持ち替えられたフルート、手の込んだモーツァルトの才能に驚かされます。

第3楽章メヌエットも前の楽章とよく調和していて2声部のヴィオラが温もりを出しています。

終楽章からは後の第29番イ長調のシンフォニーにも通じるような快活でメリハリのある音楽がきこえてきて彼が進取していることを実感します。

★★★★

【演奏メモ】

「旧ランバッハ」の第2楽章でのホルンの高音なんかをきくと、今の演奏家ならもう少し滑らかに吹くところをかなりツラそうに吹いていてオリジナル楽器演奏テクニックの進化を感じます。

第6番ヘ長調の終楽章の躍動感はなかなかヨイです。