音楽枕草子

クラッシク音楽や読書から趣味などの身辺雑記も含め、感想として綴ったblogです。

Selct Classic(2)~エルガー:エニグマ変奏曲

6月2日は英国の作曲家、エドワード・エルガー(1857~1934)の166回目の誕生日だったそうです。そこで彼の代表作「エニグマ(謎)変奏曲」作品36をご紹介します。

この作品は以前、NHKで放送していた海外ドラマ「ダウントン・アビー」で描かれていたイギリスの貴族家庭が時代に翻弄され、変化していったように「太陽の沈まない帝国=大英帝国」がついに斜陽の時を迎え、昔は絢爛豪華な光を放っていたものが、今は昔、最後の光が消えていくような音楽に感じます。

エルガーのイメージは「遅れてきたロマン派」「ブラームスの音楽を焼き直して、R.シュトラウスの音色と響きを加え、英国風の味付けした音楽(どんな音楽だ?)」「大英帝国(女王陛下)御用達音楽」と申し訳ないことにネガティブなことしか浮かんできません。

年代的にはドビュッシー5歳下(1862年生)、マーラー、ヴォルフが3歳下(1860年生)、R.シュトラウスが7歳下(1864年生)という後期ロマン派から無調音楽の出現をきいているはずですが、作品の中心は交響曲・協奏曲・室内楽と形式に沿ったものが多く、後世や同時代の作曲家に影響を与えたという話はきいたことがないし―ビーチャム、バルビローリなどお国もの指揮者やオーケストラのレパートリーという感じで「イギリスだけの大作曲家」という印象も拭えません。

それにはフランス・イタリア・ドイツといったいわば当時の音楽の中心地から外れたイギリスに生を受けたことも影響しているかもしれません。幼年期から専門の音楽教育が受けられずに独学で勉強せざる得なかった事情もあります。

そして、エルガー自身もマジメ人間だったのでしょう。ベートーヴェンベルリオーズワーグナーのような伝記作家が喜びそうなネタや、ドラマや映画化したら注目されるような波乱万丈な生涯でもなく、彼のエピソードと言えば愛する妻アリスのために有名な作品「愛の挨拶」を捧げているように、ふたり寄り添って作曲家としても大成できた―みたいな円満な人生過ぎて・・・

そしてこの「エニグマ変奏曲」と呼ばれるこの作品ですが、原題は「創作主題による変奏曲」となっており、彼の友人や周辺の人達を音楽で描いているそうです。テーマと全部で14の変奏からなる交響的作品で、各変奏にはイニシャルが記されており、研究家がどの人物がどの変奏か調べ上げたそうです。

ちなみに「エニグマ」=とはギリシア語で「謎(なぞ)」を意味する言葉で、エルガー自身がこの作品について「この変奏曲には、主題とは別の作品中には表れない謎の主題もある」云々の言葉を残したことから、その「謎の主題」とは譜面に隠された別のテーマか?もっと象徴的なものなのか?ということも研究家の調査対象になっているそうです。

しかし、きき手はそんな事は気にせずとも音楽を十分に楽しめます。ややブラームスの「ハイドンの主題による変奏曲」やR.シュトラウス交響詩「ドン=キホーテ」のイメージと重ならなくはないですが・・・。

テーマに続き14の変奏が約30分続くので、やや長いと感じる瞬間も無くはない作品ですが、耳にすっと入ってくる音楽が続きます。第7変奏のプレスト、第9変奏のニムロッドなどはその典型と言えます。他にも第10変奏のインテルメッツォはユーモラスなところ、第13変奏の描写的な音楽、そして終曲第14変奏のオルガンまで動員して大団円を迎えるフィナーレ。まさに「大英帝国の黄昏」と表現したくなります。

 

【Disc】

サイモン・ラトル指揮バーミンガム交響楽団の機能的な演奏や「英国情緒」を感じたいならサー・ジョン・バルビローリあたりがマストなのでしょうが、少しマニアックなディスクをオススメさせて下さい。

ノーマン・デル・マー(1919年~1994年)指揮、ロイヤルフィルハーモニー管弦楽団の演奏はききどころのニムロッドでの盛り上がっていく所でのタメ、全曲を速いテンポで進めてメリハリをつけてきかせ、凡聴?になりそうな瞬間のある場面も駆け抜けていく手腕がいいです。

イギリスの指揮者デル・マーは私はこの作品で知りましたが、とても印象に残りました。併録されている行進曲「威風堂々」全5曲も速いテンポと行進曲らしく、前へ前へという推進力があり、オルガン、金管・打楽器群のパンチ力にシビレてしまいます(全5曲がきけるのと、廉価輸入盤で手に入るのも大きな魅力です)