音楽枕草子

クラッシク音楽や読書から趣味などの身辺雑記も含め、感想として綴ったblogです。

ヨーゼフ・マルティン・クラウスの交響曲

皆様はヨーゼフ・マルティン・クラウス(Joseph Martin Kraus)という作曲家をご存知でしょうか?

              

彼のシンフォニー集をきいて、とてもいい曲が何曲かあり、皆様にもご紹介したいと思います。

クラウスとモーツァルト。同年の生れで亡くなったのも1年違いであり、同時代人といえるでしょう。私が興味を持って「どんな音楽なのだろう?」と思ってシンフォニーをきいた理由もそれでした。

クラウスは1756年ドイツの現在バイエルン州の生れで、1781年にストックホルムの宮廷音楽家に採用され、その直後から4年間イタリア、オーストリア、フランスへ音楽の研修旅行みたいなことをしたそうです(グスタフ3世の外遊に同行したとも言われていますが、まだ若い彼にとっては学習・最新音楽事情の吸収としていいチャンスだったのではないでしょうか?)また、その研修旅行中にウィーンでハイドンとの面識を得て交響曲を献呈し、モーツァルトとも会ったのでは?といわれています。1792年12月に肺炎で亡くなるまで宮廷音楽家の地位にありました。

他にも著述、絵を描くといった才能もあったそうです。

シンフォニーは12曲ほどが現存しているそうで、今回きいた2枚組にはそのうち8曲が収められています(他にカルテットやオペラなどを遺しているそうです)

演奏はヴェルナー・エーベハルト指揮コンチェルト・ケルンピリオド楽器によるものです。

       

まず、曲をきくと彼がメロディーメーカーであったことをうかがわせます。そしてフーガの扱いがうまくて、これはかなり先人からいろいろ学び取っているな、と感じます。そして速い楽章での疾走感と盛り上げ方、木管楽器ハイドンモーツァルト程ではないですが、独立性を与えられています。例えば弦楽器がユニゾンで弾いているところにフルートがそのメロディーに乗っかるようにして入ってくると、虹が架かったみたいに音楽に輝きと明るさが出ます。

今回きいた8曲の中で特にオススメは

機会音楽として作曲されたニ長調VB.146『ヴァイオリン・オブリガートはその名の通り、ソロ・ヴァイオリンが協奏曲のようにオーケストラと共演します(恐らくコンサートマスターが弾いたのでしょう)と、1792年暗殺されたグスタフ3世の追悼として書かれた、ハ短調VB.148『葬送交響曲は、全4楽章がゆったりとした楽章で、第1楽章からティンパニのロール打ちが、葬送行進曲の小太鼓が鳴っているようなイメージとして響きます。全編が古典的な調和の中で嘆きが表現されます。終楽章のホルン・ソロの吹奏に導かれるようにして、亡き王への追悼の行進が続くような場面が浮かんできます。後半に出てくるフーガは、より厳粛な雰囲気を創っています(この交響曲初演後、クラウス自身もその年の12月に病死しているので、恐らく遺作となったシンフォニーであると思います)

余談ですが、このグスタフ3世が暗殺された事件から着想されたヴェルディのオペラが「仮面舞踏会」です。このスヴェーデン宮廷が原案の舞台になっています(しかし、あまりにも不穏当な題材ということで、初演時は舞台をアメリカに移し、若干の修正が加えられています。ヴェルディも自信作と自負もあり、初演する劇場をはじめ、紆余曲折のストーリーあったそうです)

余談の末、道が逸れてしまいますが、私は詳しくないので・・・上演や録音では初演版とオリジナル版、の方が比重が大きいのでしょうか?わかる方がいらっしゃればご教示下さい。

実際の事件背景は、グスタフ3世の治世に反発を持った貴族たちの謀反であるそうですが、ヴェルディは史実と恋愛をうまく融合し、緊張感のあるオペラに仕上げています。

さて、話をオススメの交響曲に戻します。

作曲当時、文学から影響を受け音楽の作風のひとつであった「シュトウム・ウント・ドランク(疾風怒濤)」の影響下書かれていると感じる、ハ短調VB.142のドラマティックな展開、疾走感が魅力で、第1楽章ラルゲットの序奏部の奥深い響きから惹きつけられます。この曲がハイドンに献呈されたといわれる交響曲で、元々は嬰ハ短調VB.140から移調してメヌエットを除いたものです(このディスクでは両方収録されています)また、ここに収録された全8曲の内、短調交響曲は3曲、当時としては結構マイナー調率が高いのではないでしょうか?

管楽器に独自性がある変ホ長調VB.144、あと強弱のコントラストとフルートの使い方が絶妙なニ長調VB.143もいいです―とここまで書いて半数以上がオススメになってしまいました。。。

*なお曲についている「VB(ヴァン・ボーア)」は作品整理番号です。

若くして亡くならなければ、スヴェーデン宮廷というオーストリア、イタリアなどの当時の音楽中心地から見れば離れていたので(ただし、グスタフ3世が暗殺されずスヴェーデンが北欧の大国としての地位をその後も確保できていれば・・・という条件も付きますが)もっと知られた作曲家として音楽史に名を残せたかもしれません。彼を称するのに「スヴェーデンのモーツァルト」などと不名誉?な呼ばれ方もされなかったでしょうに。

そして最後になってしまいましたが、この作品を引き立てているのは、演奏精度の高いコンチェルト・ケルンに因るものが大きいです。速いテンポと場面切り替えの俊敏さ!人によっては落ち着きが無いと感じるかもしれませんが、この当時の作品はこういったピリオド楽器のアンサンブル&アグレッシブで機動的な演奏でこそ輝きます。